最強アックスはどれだ?!ドライツーリングコンペでのギア使用率【2019年版】

2019年、モンチュラドライツーリングチャンピオンシップ2019をはじめ、日本国内で様々なドライツーリングのコンペティションが開催された。
これまでドライツーリングを知らなかったというクライマーも続々と参加し、今ではアイスクライミングワールドカップを志す選手も増えてきている。

そんな徐々に裾野を広げつつあるドライツーリングだが、2019年はドライツーリング用のギアを取り巻く環境にも大きな変化が起きた1年だった。
一例を上げれば、韓国製ギアの台頭である。それまでロシア製Krukonogi(クルコノギ)が席巻していた環境に突如として現れ、コンペティションでの成果を確実に残しつつある。

一方で2018年秋に刷新されたペツルの超定番アイスアックスであるノミックも新型・旧型それぞれ入り混じる中、以前として高い使用率を誇る。

また、一方ではブラックダイヤモンドの初期型フュージョンや、グリベルのXモンスターなどオールドアックスで成果を残す選手がいたことも見逃せない。

そんな2019年のドライツーリングシーンをデータで振り返ってみたい。

様々なアックスが活躍した2019年
様々なアックスが活躍した2019年

使用率が高いアックスメーカー

メーカー 2018年使用率 2019年使用率 昨年比
Krukonogi(クルコノギ) 20.2% 25.8% 3.8%
PETZL(ペツル) 18.6% 24.2% 5.5%
Octa(オクタ)シリーズ 3.4% 20.8% 17.4%
Ice Rock(アイスロック) 1.7% 7.5% 5.8%
CASSIN(カシン) 11.9% 6.7% -5.2%
BLACK DIAMOND(ブラックダイヤモンド) 5.1% 5.0% -0.1%
GRIVEL(グリベル) 3.4% 0.8% -2.6%
TRANGO(トランゴ) 3.4% 0.0% -3.4%
その他 30.5% 9.2% -21.3%

2019年に台頭したOcta

KrukonogiとPETZLの上位2メーカーは依然としてシェアが高い状態が続くが、2019年はさらにOcta(オクタ)シリーズが台頭してきた。上位3メーカーだけで全体の7割程のシェアを持っていることがわかる。

Octa(オクタ)

使用率が高いピックメーカー

名称 2018年使用率 2019年使用率 前年比
Krukonogiピック 42.4% 39.2% -3.2%
純正ピック 20.3% 27.5% 7.2%
Octaシリーズピック 5.1% 24.2% 19.1%
その他 32.2% 9.2% -23.0%

純正品、ロシア製、韓国製による三つ巴の戦い

ピックの換装率にフォーカスして集計したデータを見ると、なかなか興味深い結果が見えてきた。
Krukonogiピックは昨年比でやや減少傾向であるが相変わらず高い使用率を誇る。2017年シーズンは一時期コンペでの使用率が90%を超えた時期もあった。Krukonogi一強時代はようやく終わったと言えるだろう。とは言え、製品展開の幅広さや先鋭的なモノづくりの姿勢は変わっておらず、日本のドライツーリングピックシェア1位はそう簡単に揺るぎそうもない。

純正品ピックの換装率が上昇傾向なのも面白い。具体的には2018年秋シーズンに発売されたペツル のピュアドライとカシンのトータルドライという実用的なドライツーリング専用ピックが登場した影響が大きい。特に前者は加工してASPEEDに取り付ける選手もいるほどだ。

便宜上、Octaシリーズと表記しているKwon氏がプロデュースする韓国製ピックが急激にシェアを拡大している点にも注目だ。OctaおよびIceOcta以外のアックスにも、ノミックやXドリーム、フォースアロイ、フュージョンに対応したピックが展開されている。ロシアンピックとは性質が異なるフッキング性能は好みが分かれるところだが、価格が安いこともあり、ビギナーには圧倒的に人気が高い。

尚、オリジナルピックや、データが採取できなかったケースはその他にまとめている。

ロシアと韓国のピック

純正T-Dry
純正T-Dry

使用率が高いアックス

順位 アックス 2018年使用率 2019年使用率 前年比
1位 ペツル ノミック 18.6% 22.5% 3.9%
2位 Octa 3.4% 20.0% 16.6%
3位 Krukonogi TVOROG 13.6% 15.8% 2.3%
4位 Krukonogi Anchor 1.7% 8.3% 6.6%
5位 IceRock ASPEED 0.0% 7.5% 7.5%
6位 カシン Xドリーム 11.9% 6.7% -5.2%
7位 ブラックダイヤモンド フューエル 5.1% 2.5% -2.6%
8位 ブラックダイヤモンド フュージョン 0.0% 2.5% 2.5%
9位 Krukonogi SVOROG 6.8% 1.7% -5.1%
10位 オリジナルモデル 1.7% 2.5% 0.8%
  その他 37.3% 10.0% -27.3%

ノミックが首位をキープ。女子人気のOctaが2位浮上

ペツルの超定番モデル、ノミックが今シーズンも圧倒的な使用率となった。新型モデルが多く出回る中、旧型モデルを使う選手もいまだに多い。
また、ノミックは様々なピックに対応しているため、Krukonogiや韓国製ピックを搭載すれば他のコンペ仕様アックスと互角に戦えるドライツーリングギアとなる。
2位は人気急上昇中のOctaが、Krukonogiの名器TVOROGの使用率を上回った。次点で超軽量アックスのAnchorとASPEEDが続く。どちらもアイスクライミングワールドカップでチャンピオンを経験しているアックスである。

ノミック2018モデル
ノミック2018モデル
Krukonogi TVOROG
Krukonogi TVOROG
Krukonogi Anchor
Krukonogi Anchor
IceRock ASPEED
IceRock ASPEED

男子人気はノミック、女子人気Octa

性別ごとに見てみると、使用率の差が明確に開くことが分かる。使用率第1位のノミックは、なんと女子選手にはほとんど使われていないことが分かる。女子選手は圧倒的にOctaが人気となっている点が興味深い。

順位 男子 女子
1位 ペツル ノミック Octa
2位 Krukonogi TVOROG Krukonogi TVOROG
3位 Krukonogi Anchor IceRock ASPEED
4位 カシン Xドリーム ペツル ノミック
5位 IceRock ASPEED カシン Xドリーム
6位 Octa ブラックダイヤモンド フュージョン
7位 ブラックダイヤモンド フューエル オリジナルモデル
8位 Krukonogi SVOROG
9位 ブラックダイヤモンド フュージョン
10位 オリジナルモデル
ノミック
ノミック

Krukonogiアックス
Krukonogiアックス

優勝率が高いアックス

アックス 2018年優勝率 2019年優勝率 前年比
Octa 12.5% 50.0% 37.5%
Krukonogi TVOROG 25.0% 20.0% -5.0%
グリベル Xモンスター 0.0% 10.0% 10.0%
ブラックダイヤモンド フューエル 25.0% 10.0% -15.0%
オリジナルモデル 0.0% 10.0% 10.0%
その他 37.5% 0.0% -37.5%

日本のチャンピオンアックス

最後に優勝した選手たちのアックスを見てみたい。
ダントツで勝率が高いのがOctaである。2019年は、圧巻の活躍を見せた韓国製ギアだが、2020年もこの勢いは止まらないかも知れない。特に女子選手に人気が高いが、最近では男子選手にも使用者が増えており、しかもコンペでは着実に成果を出している。

Octa以外のギアについては、まだまだ安定して勝率の高いアックスはなく、使用者がカスタマイズして使っているケースがほとんどだ。

フューエルの改造例

姿を見かけなくなったラプター
姿を見かけなくなったラプター

【番外編】使用率が高いフルートブーツ

順位 フルートブーツ 2018年使用率 2019年使用率 前年比
1位 スカルパ レベルアイス 41.0% 51.7% 10.7%
2位 スポルティバ メガアイス 7.7% 20.7% 13.0%
3位 ローバー アイスロケット 0.0% 9.2% 9.2%
4位 ザンバラン アイステック 20.5% 8.0% -12.5%
  その他 30.8% 10.3% -20.4%

半数以上がレベルアイス

フルートブーツの使用率も考察してみたい。スカルパのレベルアイスが半数以上の使用率となり、ダントツなのである。入手難易度が比較的簡単なことに加え、使用者が多いため安心感があることも人気の理由と思われる。フルートブーツのスタンダードと言っても過言ではない。
一方で使用率を下げたのがザンバランのアイステックだ。単純に構造が古く、取り回しに難があるため、買い換えるユーザーが増えた様子だ。その買い替え先となったのが、スポルティバのメガアイスやローバーのアイスロケットと考えられる。
さらに翌シーズンはKeylandの新モデル、アイスドラゴン、ドライドラゴンもどれだけ使用者が増えるか注目したい。

レベルアイス
レベルアイス

2019年のギア事情まとめ

データで振り返る2019年のドライツーリングギアはいかがだっただろうか。
こうして見ると、2019年はやはり韓国製ツールの存在感が飛躍的に高まった年であったことが印象的である。
2020年はドライツーリング史にどのようなドラマが待ち受けているか。今からとても楽しみである。

※データ集計について補足
本記事のデータはdrytooling.net編集部の独自調査をもとに集計している。
2019年に行われた国内主要4大ドライツーリングコンペティション(モンチュラチャンピオンシップ、アイスクライミングうでためしコンペ、昭島ドライツーリングコンペ、タラコンペ)を対象にしている。
アックスの使用率は、コンペで実際に使用された回数で算出しており、同じ選手が同じアックスを異なる大会で使用した場合それぞれカウントしている。
正確に使用が確認できなかったギアは集計対象から除外している。