2016年頃、アイスクライミングワールドカップを経験した選手の活躍を契機にロシア製のドライツーリングギアが日本のコンペティターの間でも徐々に浸透していきました。今日ではライトユーザー層まで広がりを見せ、当時珍しかったロシア製品も、いまや週末の岩根山荘や鎌倉山のようなドラツースポットに行けば毎回のようにそれを見かけます。見慣れない形状のアックスや、ノミックやXドリームに付いている怪しげなピックを見かけたら、それはロシア製の可能性が高いでしょう。
2017〜2018年の日本で開催されているドライツーリングのコンペティションを見ても、やはりロシア製ギアを使う選手は非常に多く、例えばノミックを使っているユーザーの約8割はロシアンピックを搭載しているという状況でした。
※参考記事
そんな中、2018年後半を境にもう一つのムーブメントが起き始めています。お隣のアイスクライミング強豪国である韓国のドライツーリングギアが台頭してきました。
Kwon Young Hye選手のもたらした強い影響
契機となったのは、2018年7月、アイスクライミングワールドカップ韓国代表であるKwon Young Hye選手が自国で行われるドライツーリングアカデミーに日本人選手を招待したことでした。このとき日本からワールドカップ選手を含む6名の選手が参加しました。その後、何度も韓国へトレーニングに通う日本人選手もいるほど、ドライツーリングの練習環境ははるかに充実していました。また、Kwon選手は独自のドライツーリングギアを開発しており、コンペ選手の視点で設計されたギアは日本人にも非常に使いやすいとされ、さらに低価格とあって、愛用する日本人選手がこの頃から増え始めます。
日本女子選手の活躍を支えるOcta(オクタ)
先日のモンチュラドライツーリングチャンピオンシップ2019を振り返ってみると、エントリーした女子選手の半数近くがKwon選手がワールドカップで使っているアックスと同じOcta(オクタ)を使っています。さらに表彰台に立ったトップ2選手もOctaを使っているという状況でした。韓国へトレーニングに通った選手が成果を出したことも印象深いシーズンでした。
このOcta、レギュレーションフルサイズで、かつ軽量。両手が入るグリップは持ち替えがしやすく、クセが少ないため、女子選手を中心に人気が高まっています。


爪先までも席巻
フルートブーツの先端に付いているフロントポイントと呼ばれる一本爪。これも今や韓国製フロントポイントがコンペティターのスタンダードになりつつあります。先端が鋭利で、ロシア製に劣らず刺さりやすい点が評価されており、削って加工しやすいこともメリット。さらに低価格のため、買い替えサイクルが比較的早いフロントポイントは男女問わず愛用者が増えています。

ピックやホールド、そして
種類は多くないですが、他メーカーのアックスに対応したピックもいくつか出ており、ノミック、Xドリーム、フォースカーボンなど。鋭いクチバシのような先端が特徴となっており、やはりドライツーリングを意識した設計になっています。さらにアイス用もラインナップがある模様。


アルミ製のホールドもドライツーリングの練習現場では見かける機会が増えました。モンチュラドライツーリングチャンピオンシップ2019の決勝課題で多くの選手を翻弄したあの金色のホールドも韓国産でした。


ところで、アックスを横向きにかけることを「ヤンガー」と言います。言葉の由来は不明ですが、これも2018年頃より韓国から浸透した言葉で、日本のドライツーリングの練習場でよく耳にするようになりました。
一言で韓国製と言っても、実際にはいくつかの種類(流派?)が存在するようで、Kwon選手のギアはその一つに過ぎません。まだまだ未知の領域が多いドライツーリングギア。今後も新たなツールの登場に注目です。