今更語るまでもなく全国にクライミングジムは数多く存在するが、ドライツーリングを体験できる施設はごく一部に限られ、一般的にあまり知られていないのが実状だ。ドライアイスツールと呼ばれる先端がゴムバンドになったツールを用いて、ボルダリング用のホールドに引っかけて登ることを許可しているジムはたまに見かけるが、それをドライツーリングと呼べるかは微妙なところである。ドライツーリング専用の硬質なホールドにアイスアックスを用いて登ることができる専用ウォールを備えたジムは非常に貴重である。今回はそんな珍しいドライツーリングウォールを備えた施設を紹介したい。
ベータクライミングジム
ベータクライミングジムは東京・曙橋に構える都心型ボルダリングジムであるが、最上階フロアにはドライツーリングウォールが設けられている。2018年にイベント時のみ使える形で利用開始となったが、2019年より一般利用できるようになった常設型ウォールである。
首都圏在住のドライツーリング愛好家が集まる施設となっており、コミュニティも活発だ。このジムで初めてドライツーリングを知った人も少なくないだろう。
特筆すべきは、ホールドの種類の豊富さである。ロシアや韓国、イラン、スイス等、世界中のマニアックなホールドに触ることができる。課題のセット替えも頻繁に行われている。
講習会や練習会等のイベントも定期的に開催されており、さらにレンタルギア(有料)もあるため、初心者でも安心して利用できるだろう。
過去には、第3回Kwon’s drytooling academyの会場にもなっている。年1〜2回ペースでコンペティションも開催されており、2021年3月にはモンチュラカップの第4回大会に該当する「モンチュラ・ベータドライツーリングカップ2021」の舞台になっている。
ランナウト
東京・西国分寺にあるクライミングジム。ジムの目玉はリードクライミングウォールであるが、屋外にあるロープ壁ではアイスアックスの使用が認められており、誰でも利用できる。
同じ東京都内のベータクライミングジムよりもドライツーリングウォールとしての歴史は長いが、課題が固定のため、アイスクライミングシーズン前のトレーニングとして利用されることが多いと思われる。
トップロープのみの使用ルールはあるが、アイスアックスを用いて一定の高さのある壁を登れる貴重なジムである。
ストーンマジック
神奈川県相模原市にある、日本で最初のアイスクライミングのコンペティションが開催されたという元祖ドライツーリングジム。現在は、ワークショップ等のイベント開催時のみ開放されているようだ。アイスアックスのほか、アイゼン(またはフルートブーツ)が使えることが特長である。
Zig’s Rock(たらこウォール)
長野県上田市にある本格的なドライツーリング施設。フルートブーツの利用が可能で、ルーフ面が広い。最新のホールドを備え、吊るし物等のギミックが豊富にある。アイスクライミングワールドカップを志す日本人選手たちが通うこともあり、高難度な課題が展開される。最新のドライツーリングのムーブやテクニックが日々ここで研究されている。
しばらくは、Kwon’s drytooling academyを受講した一部の選手たちに限定的に開放している壁であったが、2021年1月より一般開放されることになった。ただし、ジムスタッフが開催する講習会に参加しなければ、ドライツーリングウォールの利用権は得られないため、その点は注意いただきたい。
プロスト -クライミングクラブ-
栃木県小山市にあるクライミングジム。そこに常設されるドライツーリングウォール。フルートブーツの利用が可能となっている。2020年より利用開始され、日々アップデートされているようなので、今後の動向にも期待したい。
モリパーク アウトドアヴィレッジ(通称:昭島ドライツーリングウォール)
東京・昭島に2017年4月に限定的にオープンした高さ15mのドライツーリングウォール。スピードウォールの脇に併設されている。2018年より一般利用され始め、定期的にワークショップやコンペティションが開催されてきたが、2020年頃より、一般利用はできなくなっている。今後の動向を注視していきたい。
岩根山荘アイスツリー
長野県川上村にある岩根山荘の敷地内にて冬季限定で設営される人工氷壁アイスツリー。その南面に位置するドライツーリングウォール。2017年より始まったモンチュラカップの舞台でもある。その後、この壁で開催されたコンペティションでは数多くのドラマが生まれた。2020年以降は、ドライツーリングウォールが設営されなくなっている。
岩根山荘オンサイト/オンサイト西壁
同じく岩根山荘敷地内にあるドライツーリングウォール。2017年7月にオープンしたオンサイト内にあるドライツーリングウォールは、当時、冬以外のシーズンに練習する場所がなかったドライツーリング選手にとって貴重な練習施設だった。その後、2019年11月にオンサイト西壁がオープンした。どちらも有志によって作られた練習施設であった。
赤岳鉱泉アイスキャンディ
八ヶ岳、赤岳鉱泉の人工氷壁アイスキャンディに設営されていた冬季限定のドライツーリングウォール。2016-2017シーズンを最後に姿を消したが、2016年までは、アイスキャンディカップの舞台となっていた。アイスキャンディは現在も冬季シーズンに設営されているが、ドライツーリングウォールのあった面影は今はもうなくなっている。
Uウォール
宮城県にあるドライツーリング練習施設。地元の有志で運営されており、一般開放されていないと思われる。詳細は不明。
登攀道場美唄
北海道美唄市にある体育センターで、その施設内にあるドライツーリングウォール。詳細はこちらの記事を参照していただきたい。
まとめ
現在すでに利用できない施設も含めての紹介となってしまったが、国内のドライツーリング練習施設はやはりどれも貴重な存在となっている。また、今回は紹介できなかったが、競技志向で熱意のある選手が自宅内に設置したジムもいくつか存在しており、SASUKEのようなマイナースポーツ特有の世界観が感じられるのもドライツーリングの魅力であると思える。今後も新たな練習施設がオープンした際は改めて紹介していきたい。