世界を驚愕させた日本メーカーの本気。3段アックス”旭”の挑戦

UIAAアイスクライミングワールドカップ2019の最終戦アメリカ・デンバーにて、日本代表の門田選手が日本人男子で歴代2人目となるファイナリストに名を馳せたことは記憶に新しい。門田選手の快進撃を支えた裏で、ドライツーリング愛好家たちの間で話題となっているのが日本製のオリジナルアックスの存在である。門田選手も自ら開発に携わったという旭鉄工(株)製のアックス”旭”について考察してみたい。

コンペティションに特化した特別仕様

一般的に広く普及しているアイスクライミングを前提に作られたアックスは、持ち手がロング、ショートと呼ばれる2段階で持てるように設計されている。通常、アックスはピック側に近い部分でシャフトを持つほど、フッキングが不安定になり、ホールドから外れてしまうリスクが高まる。そのため、2段階の持ち手が標準となっていて、3段目(に該当する位置でシャフト)を持つことは、教科書通りであれば、御法度である。

旭は3段階で持つことを前提に作られており、シャフトやピックの長さ、カーブ度合いが絶妙なバランスを保つように設計されている。安定して3段目のグリップを使うことができるため、2段目の持ち手よりもさらに引き付けが効き、より遠くの位置にあるホールドに届きやすくなる。さらにグリップ上で手が重なることがないため、持ち替えが非常にスムーズとなる。この3段階の持ち手は、ドライツーリングコンペティションに特化して作られた旭の最大のストロングポイントと言えるだろう。

「旭」
「旭」

研究の果てにたどり着いた一つの解

世界的に見ても非常に珍しい3段アックスではあるが、使っている選手も一部に存在する。その使い手として真っ先に浮かぶのはアイルランド女子代表のEimir Mc Swiggan選手だろうか。2019シーズンはワールドカップ全戦に出場している中、各大会でコンスタントに好成績を残し、最終的に世界ランク3位につけている疑いのようのない実力者だ。彼女が使用しているアックスは、3段階の持ち手が特徴的な韓国製アックスだ。その3段目のグリップは勝負どころで決定的な仕事をしている。ときにリーチがモノをいう局面もあるため、この長さは女子選手にとっては非常に大きなアドバンテージとなる。

門田選手も積極的に3段目のグリップを活用し、正確で高速な登攀を実現している。このあたりの国境を越えて共鳴するアックスの設計思想は実に興味深いところである。
ピックを極端に短くすることで、3段目のグリップを安定して持てるよう改造を試みている選手も少なくないが、シャフトの形状から理想形を追求して開発されたアックスはなかなか見ない。
実は、それでも3段アックスの優位性については、日本のドライツーリング愛好家たちの間でも賛否両論あり、長きに渡る研究テーマでもある。ただ、ファイナル進出という成果を持って、その一つの解を門田選手が証明したことは言うまでもない。

旭を使いこなす門田選手
旭を使いこなす門田選手

日本メーカーの本気が世界を驚かせた2019シーズン。本業ではないアックス製作に社員のリソースを相当注ぎ込んだという旭鉄工(株)の逸話は非常に情熱的だ。今後、サポート選手の拡大やアックスの市販化はあるか。更なる動向にも注目だ。

PHOTO BY 旭鉄工(株)HP
UIAA Ice Climbing World Cup 参戦記より