ドライツーリングにおける蹴り込みについて

ワールドカップをはじめ、一般的にドライツーリング(≒アイスクライミング)のコンペでは、足用のホールドは設置されておらず、コンパネにアイゼンの前爪であるフロントポイントを蹴り込んでムーブを起こします。もちろんホールドにフロントポイントやフルートブーツの踵部分を乗せることもできます。

この蹴り込みという動作は人工壁特有のもので、当然ですが外岩で使うことはありません。擬似的に氷にアイゼンを蹴り込む動きを再現することで、アイスクライミングを競技として成立させているとも考えられます。

コンパネへの蹴り込み
コンパネへの蹴り込み

ただし、蹴り込むことで当然、コンパネは傷み、いずれ使えなくなるほどに壊れます。そのため、人工壁の管理者は定期的にコンパネを交換しなければならず、非常にコストがかかります。

そのような事情から、蹴り込みを許可している人工壁は、今のところ日本ではほとんど存在しません。ドライツーリングのコンペでも、開催場によっては、足はアイゼンではなく、クライミングシューズ着用で行う場合もあります。

では、どうやって蹴り込みの練習をすれば良いか、という課題が残りますが、自宅に自分専用のジムを設けるか、蹴り込みを許可している人工壁を探すほかありません。

日本では冬季限定になりますが、八ヶ岳の赤岳鉱泉アイスキャンディーか、岩根山荘アイスツリーが主な練習場になるかと思います。シーズン中は毎週全国からドライツーリング愛好家が集まりますが、それほど日本の練習環境が不足しているとも言えます。

赤岳鉱泉アイスキャンディー(例年ドライウォールはごく一部のみで縮小傾向にある)
赤岳鉱泉アイスキャンディー(近年、ドライウォール部分は縮小傾向にある)

岩根山荘アイスツリー
岩根山荘アイスツリー

最後に蹴り込みの道具ですが、登山靴にアイゼンを装着した状態で蹴り込むことも可能ですが、アイゼン一体型のフルートブーツを用いることがドライツーリングのコンペティションでは標準とされています。フルートブーツは軽いため、圧倒的に足を動かしやすく、アイゼンが外れることもないため安定性が増します。

そして、アイゼン、フルートブーツどちらにも共通しますが、フロントポイントは基本的にモノポイント(1本)が推奨されます。アイスクライミングでは、デュアルポイント(2本)が好まれることもありますが、コンパネの蹴り込みでこれを用いるシーンはほぼありません。

また、アイスクライミング向けに作られている(ブラックダイヤモンド ラプター等の)フロントポイントは、先端がやや下方向にあるため、垂直方向に蹴り込むのが難しいとされています。そのため、蹴り込みやすいような角度に先端を削るか、より刺さりやすいクルコノギ等のフロントポイントに変更することが推奨されます。このフロントポイントは、ドライツーリングのギア選定における重要な悩みどころでもあります。

クルコノギのフロントポイント
クルコノギのフロントポイント
様々な種類のフロントポイント
様々な種類のフロントポイント
フロントポイントの消耗
フロントポイントの消耗