アイスクライミングとドライツーリングの違い

アイスクライミングとドライツーリングについて、知らない人からするとほとんど似たようなものと思われるかも知れません。ドライツーリングは、アックスとアイゼンを用いた岩稜帯の登攀技術であり、擬似アイスクライミングという側面もありますが、スポーツクライミングとして見たとき、氷の有無以外にもアイスクライミングとは非常に大きさな違いがあります。

今回は2点紹介します。

アックス(ピック)の違い

アイスクライミングでは、氷にアックスを刺すことができ、氷を叩くことでフッキングできる形状の氷を作ることができます。一方でドライツーリングは、すでにある形状のホールドに対して、どうアックスをかけるか見極める必要があり、基本的にフッキングのみで登ることになります。

使用するアックスも湾曲したハンドルタイプのアックスが適しており、アルパインでよく使われる直線的な形状(代表的な例だと、ペツルのクォークやブラックダイヤモンドのバイパー等)のものはドライツーリングには向きません。
これは後述する壁の傾斜の違いや、手を持ち替える動作が頻繁に行われるためであり、アックス選びにおいて重要なポイントになります。

また、ドライツーリングでは、アックスをスイングするシーンがほとんどないため、打撃力強化のためのウェイトも意味を成さず、基本的には軽量であることが望まれ、カーボン素材のアックスは特に好まれる傾向にあります。

さらに重要なポイントとして、ピックの形状があります。ロシアのメーカー、krukonogi(クルコノギ)やIR(Ice Rock)社が販売しているドライツーリング向けのピックは、非常に剛健で、先端の角度が強く、さらに鋸のようなヘッドの刻み等の特徴があり、フッキング性能に優れています。
一般的なアックスの標準装備となるアイスクライミング用のピックは細身で氷に刺さりやすい反面、強度やフッキング性能が大きく劣ります。もちろんアイスクライミング用のピックでもある程度は登ることができますが、先鋭的なピックと比較するとフッキングした際の安定度に差があります。

しかしながら日本国内では、ドライツーリング用のギアは市場にほとんど出回っておらず、入手難易度が高いという問題もあります。
国内で流通している商品では、ミックスクライミング用に設計されたピックが比較的ドライツーリングに向いており、先端の削り方を工夫することで、よりフッキング性能の向上が期待できます。このような自分に合ったカスタマイズを模索するのもドライツーリングの楽しみと言えます。

ちなみにドライツーリングのコンペでよく使われるアックスは、ペツルのノミックです。アイスクライミングやアルパインクライミングでの汎用性はもちろん、他社メーカーからもパーツ類が豊富に出回っており、拡張性に富んでいます。

定番アックスの代表格 ペツル ノミック
定番アックスの代表格 ペツル ノミック
ピックの形状の違い
ピックの形状の違い

壁の傾斜と空中戦

先述したアックスの違いの中でも軽く触れましたが、ドライツーリングの特徴として、壁の強傾斜が挙げられます。
アイスクライミングでは、(一部の特殊なものを除いて)基本的にバーティカル(垂直)が最大の斜度となるため、カウンターバランスなどのムーブを使いこなしつつも、ある程度、足場を安定して作ることができます。
対して、ドライツーリングの場合、90度以上の傾斜に常にぶら下がっている状態のため、身体的な負荷が非常に強いことが特徴です。
中〜上級者向けルートでは、足が完全に壁から離される状態を強いられることがあり、この際にフィギュア4、フィギュア9と言ったドライツーリングの代表的なムーブが用いられ、足が離される状態は”空中戦”と呼ばれ、ドライツーリングの醍醐味でもあります。

さらに近年ワールドカップでは、ランジを用いたムーブも見られるようになり、日々、ダイナミックなムーブが試みられ、進化を続けています。

空中戦の練習
空中戦の練習
チェーンを用いた空中戦
チェーンを用いた空中戦