ドライツーリング用のホールドについて

ドライツーリング可能な人工壁では、ホールドにアックスをフッキングするという特性上、フリークライミングで使われるホールドではなく、ドライツーリング専用のホールドがついていることが多い。
今回はドライツーリングのホールドについて紹介していく。

また、ホールドを知っておくことで、コンペの時に役に立つことがあるかもしれない。
初見のホールドにフッキングするのと、対処法がわかる馴染みのホールドにフッキングするのではメンタル的に雲泥の差があることを実感できるからだ。

多様な材質・形状が存在

パッと見フリークライミングと同じ様な形状のものや、ドライツーリングならではといった特殊な形状をしたものなど、様々なパターンのホールドが存在する。

樹脂製のホールド

樹脂であるため、フッキングするポイントさえあれば形状は自由自在。
何度もフッキングしていくと徐々に掘れていくのが特徴。
使いこまれたものほど掛かりが良くなる。
フリークライミング同様、手で持つこともできるようなフリクションがきくものもあれば、ツルツルして手で持つことが困難なものもある。
最もポピュラーな部類のホールドである。

樹脂+金属製のホールド

top point(露)製ホールドで良く見られるタイプ。
樹脂製ホールドのように形状は様々なものがありながら、フッキングする部分が金属となっているため前述のホールドのようにフッキングポイントが掘れるというデメリットがないのが特徴。
フッキングポイントが浅い点も注目するところで、フリークライミングでいうところのカチやスローパーといった保持しにくい部類のホールドとなっている。
フッキング時はしっかりと溝に効かせないと身体を上げたときに簡単に外れる。
ピックの先端から伝わる感覚を頼りにかかりを感じ取ってからムーブをおこしたい。
また、フッキングポイントの深さを調節できるようなモデルも登場しており、柔軟な課題設定に一役買っている。

金属製のホールド

いわゆるメタルホールドと呼ばれるホールド。
全て金属で出来ているため、非常に堅牢。
重量があるため、安全面や取付時の手間などを考慮してか、小ぶりのものが多い。
krukonogi(露)から様々な形状のものがリリースされており、パッと見てどのようにフッキングすればよいかわからないパズルのようなものも存在している。
ドライツーリングならではのホールドと言えるだろう。

木製のホールド

2×4材などを拳大程度にカットした簡易的なホールド。
軽量で安価。
アイスクライミングのようにアックスを打込んで使うことも可能。
穴を開けてルーフに吊るして「マグロ」として使うこともある。
加工が容易でトレーニング時には有用な選択肢となるが、木くずが出るため屋内ではこまめな清掃が必要となる…。

石製のホールド

smart stones pro(スイス)から提供される石のホールドや、ホームセンターなどで俗に言うピンコロ石を加工してホールドとしたものが存在する。
ミックスの課題にトライする人や、ナチュラル指向の人にはささるホールドであろう。
全く同じ形状のものがないため、唯一無二感が魅力だ。

その他

上記で紹介した材質以外にも、硬質のスポンジのようなものでアックス打ち込めるようにしたホールドも存在する。
氷に見立てて打ち込みが可能であるが、同じ箇所に打ち込むとピックが抜けやすくなっていく。木製のホールドよりも扱いが繊細になるため、よりアイスクライミングのトレーニングに適したものといえよう。

フリークライミングのホールドとの違い

わかりやすい違いはホールドの重量にある。
フッキングした際に、1点に荷重がかかるためホールドが破損しないよう密度を高くしたものが使われる。
同サイズのフリークライミング用のホールドと持ち比べてみるとその違いを実感できるだろう。
また、樹脂製ホールドの項でも述べたが、ホールドの表面がザラザラしている必要がないため、フッキングさえできれば、あらゆるものがホールドの対象となる。

フッキングのパターンから見るホールドの形状

ドライツーリングでは、ホールドの形状を見て、フッキングする方向を的確に判断していくことでルートを攻略していくことになる。
上から単純にアックスをひっかけていく以外にもいくつかの選択肢がある。

ヤンガー

ドアノブのような円柱状の突起があるホールドにはヤンガーでのフッキングが効果的だ。
ピックの先端をどちらに向けるかも重要なところで、次のホールドの位置を考慮しつつ保持するようにしたい。
ピックの奥でフッキングすると、身体を上げた際、アックスのヘッドが壁に当たりテコが効いて外れてしまいやすいので、ピックの先端でヤンガーを行うように意識するのが大切だ。

サイド引き

上からかけるようなホールドを90°程度回転させて配置されていたりすることがある。
そんな場合は、サイド引きが有効だ。
距離が遠い場合はグリップを逆手に持ってフッキングすると身体が壁から離れにくい。
レイバックの要領で身体をホールドへ近づけ、次の一手を出すようにしたい。
サイド引きの場合、上からフッキングするよりも手の位置が上になる分、身体を高くすることが出来るので、しっかりとツイストさせれば遠くの一手に手が届く。
クロスに出すとより安定する。

注意したいのは下方向へ荷重がかからないようにしたいところ。
フッキングしている位置やホールドの形状によっては簡単に外れてしまうからだ。

アンダー

アンダーを効かせるようなホールドはパッと見でわかりやすいことが多い。
下向きに明瞭な穴が空いていればそれとわかるだろう。
テコが効くのを想定しているため、ホールドも厚みがあったり、金属製であったりと頑丈なホールドが付いていることが多いのも判断基準となる。

最も距離を出せるムーブとなるため、次のホールドが遠くに設置されていることが多い。
また、テコを効かせたままだと壁から遠くなり距離が出せないので、身体を上げるときに合わせてアックスのヘッドを浮かせて壁との距離を近くすることが重要となる。

トルキング

ホールドにピック1枚分程度の隙間があった場合、そういったホールドはトルキングして保持することが出来る。
人工壁ではあまり出てくることはないが、遭遇した際には間違いなく鬼門の一手となるだろう。
クラッククライミングをやる人にはお馴染みのジャムを効かせて保持する感覚に近いホールドとなる。
ミックスのルートやハードなアルパインクライミングをやる人にとっても頻出の保持方法だ。
アックスをクラックにねじ込んでテコを効かせて保持することになるため、ピックやアックスへの負荷が非常に強い。
かと言ってねじ込みを緩めると瞬時にホールドから抜け落ちてしまうため、加減が難しいのも特徴だ。

まとめ

ドライツーリングホールドの材質・特徴とともに、特徴的なホールドのフッキングの選び方を紹介してきたがいかがだっただろうか。
ドライツーリングはフィジカルがものを言う場面が多いが、このような知識が少しあるだけで負荷が変わってくることもある。
日々のトレーニングに役立てば幸いだ。