国内頂上決戦!モンチュラドライツーリングチャンピオンシップ2019【イベントレポート】

2019年3月16日〜2019年3月17日の二日間で、モンチュラドライツーリングチャンピオンシップ2019が開催されました。
日本で最も強いドライツーリングの選手を決定する戦いであり、その舞台は、日本におけるドライツーリングの聖地・岩根山荘で行われました。

ドライツーリングの聖地・岩根山荘
ドライツーリングの聖地・岩根山荘

本大会の前身であるモンチュラカップ2017、モンチュラ・ナナーズカップ2018に続き、モンチュラの名を冠するコンペとしてはこれが第3回大会にあたります。しかしながら、これまでの大会とは大きくコンセプトを変えている点があります。

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純粋なドライツーリングの大会

これまでのモンチュラコンペはアイスクライミングの大会をベースとしていたため、予選課題にバウンダリーのアイスクライミングルートが出ることがありましたが、今大会はアイスの要素を完全になくし、ドライツーリングの大会として明確に打ち出しています。
また、同じ岩根山荘を舞台に2月に行われたアイスツリーカップ2019が純粋なアイスクライミングの大会だったこともあり、これまで曖昧だった競技区分を明確に切り分けたと言えるでしょう。

出場者全員がオープン参加

ビギナークラスやエキスパートクラスの区分を設けず、全員が同じオープン参加としてエントリーして競い合う形式でした。タイトル通り、チャンピオンを決めるコンセプトが感じられる内容となっています。出場選手は関東圏が多いものの、北海道や東北地方、中京圏など、全国各地から集まりました。

ルートセッターは世界的選手

アイスクライミング強豪国として知られる韓国の現役代表選手として、ワールドカップでも活躍しているKwon Young Hye選手が本大会のルートセットを行いました。同氏は、国際大会で成果を出す傍で、アジア各地でのドライツーリングの普及活動にも大変力を注いでおり、昨年は日本でも2回のドライツーリングアカデミーを開催しました。
Kwon Young Hye選手が日本のドライツーリングの発展に多大な影響を与えていることは語るに及びません。

コンペの予選課題

予選課題は3本。エントリーした選手には事前にKwon選手が登る動画が配信されており、フラッシュ形式が採用されました。
すべてのルートが1回ずつしかトライできず、到達高度に応じてポイントが入り、完登の場合はタイムで順位がつきます。制限時間は男子が150秒、女子が180秒と、かなりシビアに設けられています。これは単純なクライミング能力だけではなく、時間内に確実に登るオブザベーション能力と速く登るための技術が試されます。
予選の各ルートでは極端にフッキング難易度が高いホールドはなく、また体格によってリーチが厳しくなるような距離に配置されたホールドもなく、ひたすら基礎的な動きだけが求められます。
各ルートに配置されたホールド数は15〜17個ほどですが、トップロープによりクリップはないため、制限時間内に完登するためにはホールド1つを概ね10秒以内で処理する計算になります。
アックスのコントロール技術が高い選手は、持ち替え回数を最低限に抑え、フッキングポイントを見つける時間も非常に速く、1つのホールドを5秒程度で処理することができ、結果的に上位選手は1分台で完登することに成功しています。
このドライツーリングにおける登攀能力は、ホールドの形状や性質に対する情報・知識を持ち、アックスやフロントポイント(アイゼンの先端の爪)など道具に対する理解を伴うものであり、単純にフリークライミングの登攀能力が高いだけでは、速く正確なクライミングは成り立ちません。

予選課題
予選課題

もう一つの戦い。スピードクライミング

UIAAアイスクライミングワールドカップでは、リードクライミングの他にスピードクライミングという競技があります。これは単純にアイスクライミングのスピードを競うだけの競技になりますが、今大会でも正式種目としてスピードクライミングが行われました。
すでに氷が痩せ細ってしまっているコンディションのため、高さ10m程度の垂直の人工壁がルートとして採用されました。1人2回ずつ登攀し、その2回の合計タイムが短い方が勝ちという単純明解なルールですが、速く登るほどにフォールするリスクが高まります。フォールすると記録に残らないため、単純な1回の速さだけではなく、数回登攀してもフォールしない安定感も求められます。また、コンペである以上、他の選手のミスによって、戦局が大きく変わるタイミングがあり、より高順位を目指す過程で選手間で発生する駆け引きもこの競技の見どころとなります。

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スピードクライミング人工壁
スピードクライミング人工壁

そして決勝へ

大会2日目のスケジュールはオンサイト方式の決勝戦のみ。男子8名、女子7名、ファイナリスト紹介後にオブザベーションタイムに入り、男女交互で順に登ります。制限時間は男子330秒、女子360秒、リード方式を採用しており、到達高度をカウントするうえでクリップ数が最も重要な指標になります。
ルートは男女ともにシビアなホールドが増え、テクニカルなムーブを要求される箇所も出てきます。特に男子ルートの終盤はフィギュア9、フィギュア4が連続するマグロ(吊るされた木材)が配置され、見応えのある空中戦が展開されました。

決勝課題を登る竹内選手
決勝課題を登る竹内選手
決勝課題を登る橋本選手
決勝課題を登る橋本選手

総括

優勝した橋本翼選手、竹内春子選手はそれぞれ現役のアイスクライミングワールドカップ選手ですが、2019年シーズンに初参戦したばかりで、今後の日本のドライツーリング界を牽引していく選手として期待されています。
一方で準優勝に輝いた森田啓太選手、笹川淳子選手は今シーズンのマスターズ(50代以上のアイスクライミングコンペ)でも結果を残したベテランであり、世代別による熾烈な優勝争いも今後のドライツーリングコンペでは是非注目したいポイントとなります。
そして今後期待の有望株として、やはり小武芽生選手の存在も見逃せません。今大会は6位という結果でしたが、ドライツーリングがほぼ未経験という状況の中での見事な決勝進出でした。

入賞した女子選手
入賞した女子選手
入賞した男子選手
入賞した男子選手

最後に

クライミングジャンルの中でも非常にマイノリティーな存在であるドライツーリングですが、もし本サイトを見て少しでも興味を持っていただけた方は、今後各地で開催されるドライツーリングイベントに是非チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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