奈良誠之プロデュース!ピリカカップin北海道美唄

2022年11月6日(日)、北海道美唄にてピリカカップが開催された。

ピリカとはアイヌ語で「良い、美しい、豊か、かわいい」などポジティブな意味合いを持つ言葉だ。

今回は奈良誠之氏が、ルートセッターのみならず、運営・進行・ジャッジなど総合的な取りまとめを行うコンペとなった。

コンペと謳ってはいるが、趣旨としては仲間とワイワイ楽しむことが目的で、エンターテインメント性の高いお祭りイベントのようだった。

そんなピリカなコンペの模様をレポートしていく。

会場の雰囲気

プロデューサー紹介

奈良誠之(ならまさゆき)

北海道のクライミングシーンで数々の実績を残すカリスマ的存在。近年では、DWS(ディープウォーターソロ)開拓や北海道アイスサーキット開催、斬鉄剣フリー登攀など、その常識にとらわれない斬新なスタイルでの活躍に多くの人が魅了されている。

今大会は総合プロデューサーを務めるとあって、どのようなコンペティションになるのか注目を集める。

アックスの基本動作をレクチャーする奈良氏

登攀道場美唄という名の壁

会場となったのは美唄市体育センター。
登攀道場美唄と呼ばれる高さ10m、幅7m、最大傾斜180°の壁だ。

この壁は左右で趣が大きく異なっており、中央から左側が緩傾斜壁、中央から右側が強傾斜壁及びルーフとなっている。

体育館の角にあるとはいえ、かなりの存在感を放っている。

右側の強傾斜壁の圧迫感

豊富な課題数と基本ルール

左右の壁にそれぞれ5課題ずつ設定されており、左側は1、2、3、4、5、右側は10、20、30、40、50という課題識別番号が割振られた。
課題50のみリードでのトライで、それ以外はトップロープとなる。

登攀スタイルはアイスアックスを用いるが、足元はクライミングシューズを着用する。その他概ねのルールはIWC(アイスクライミングワールドカップ)のレギュレーションに準拠する。

1課題3分目標

あくまで3分は目安だ

各課題、制限時間3分でフォールしたら終了。列に並び直せば何度でも再トライ可能で、最終的に完登した課題数が最も多かった者が勝者となるシンプルなルールだ。
時間計測もおおよそでOKとなっており、多少のゆるさは許容されている。

アックス落下防止対策

リーシュ必須

登攀時にリーシュコードを付けることになっているのが今までのコンペにないスタイルだ。
考えなしにアックスを持ち替えたりすると簡単にリーシュが絡まってしまう…。いつもより冷静にアックスをさばくことが重要だ。

ちょっとだけお試しで…がやりやすい参加条件

コンペの参加条件も特徴的で、事前の参加申込不要、参加費無料、途中参加/退場自由と、だれでも気兼ねなく参加が可能だ。 (お菓子を持参することが参加条件)

受付時に箱の中にお菓子を入れるのがルール。コンペ中にみんなで自由に食べて良い。

実際、空港から徒歩でフラッと?参加しに来た栃木県小山市にあるクライミングジムのオーナー向井黄河さんも急遽参加。

空港から約70kmを徒歩でアプローチした後、公園でビバークした向井さん。コンペ会場ではトークにも参加

「今日初めてアックスで登る」という人も多数参加しており、道具の無料レンタルも用意されていた。

コンペ開始後少ししてから、左側の緩傾斜壁で、奈良氏による初心者講習の時間も設けられ、アックスで登ることの注意点などを学ぶことができた。

奈良氏によるTech Tips
お手本となる登攀を見せる竹内春子

もう一つの参加枠「ピリカカップB」

ピリカカップには裏面とも呼べる参加枠が存在する。

こちらは2022-2023シーズンのIWCの出場を志す選手限定の参加枠となっている。

朝一番からオブザベするB枠の選手たち

選手達にオンサイトトライの機会を与えて、IWC本戦に活かして欲しいという奈良氏の心意気による参加枠だと感じられる。

もちろん言うまでもないが、B枠の参加者は全員が本気モードである。

ピリカカップBでは、以下のルールが採用された。

  • 課題3、4、5、40、50の完登数で上位5名が準決勝に進出
  • 準決勝は7分のリード課題で到達高度上位3名が決勝進出
  • 決勝は10分のリード課題で到達高度で順位を決定。決勝のみリーシュレス。

ピリカな課題の数々

初級者も楽しめる絶妙な難易度設定

識別番号の数値が大きいほど難しく設定されていたが、左緩傾斜壁の課題1と右強傾斜壁の課題10は初級者向けに設定されていたため、完登者が非常に多かった。

これらの課題は、ピックが容易に引っかかりやすい木っ端ホールドをメインに構成されており、フッキングの方向にさえ気を付けていれば初級者でも問題なく突破が可能だ。ウォーミングアップにも良さそうだ。

大行列の順番待ちとなった基本ムーブの課題1。完登者23名
傾斜壁の入門となる課題10。完登者13名

中級者以上でも苦戦する課題

左側の壁の課題は傾斜が緩い分、シビアなホールドが多く、手での保持限定ホールドもあり、テクニカルな対応を求められる傾向にあった。
ホールドの最適なフッキング方法の理解や、場合によってアックス以外の選択肢をとれる柔軟な発想が試される課題が目立つ。

一方で右側の壁は、傾斜の強い中でしっかりと次の遠い一手をとれる出力を試される課題となっていた。
フリークライミングと違い、得物を持って登攀する分、自分がどれくらいの距離を出すことができるのか把握することが重要になってくる。

1箇所処理が難しいホールドが核心となる課題2。完登者9名
遠いホールドを取りに行く課題3。フィギュア4が攻略の鍵。完登者8名
シビアなホールドが続き、上級者も苦戦した課題4。完登者4名
大部分を手で登る最難の課題5。完登者1名
メタルホールドが登場する課題20。完登者11名
フッキングパターンが増える課題30。完登者3名
テクニカルなムーブが試される課題40。完登者7名
唯一のリード方式を採用する課題50。完登者6名

ピリカカップB〜準決勝〜

超豪華!MCによる解説付き

奈良氏による解説で会場が盛り上がる

奈良氏のMCにより、準決勝にコマを進めた6名(完登数が同数のため)が順次トライ開始。

選手がトライ中のルートについて、どのような点が難しいポイントなのか、また選手が選択したムーブの有効性など、ギャラリーに分かりやすく解説してくれた。

準決勝課題は、上部にぶら下がるチェーンと先端に付く球体が目を引くが、100均のチェーンを採用したとのこと。

耐久性に不安を覚えるが、もしトライ中に破損した場合、テクニカルインシデントにはならず、フォールの判定となることが知らされた。

これはミックスクライミングで、不安定な氷柱を突破するシーンを想定しての判断ということであった。

MCを途中交代した竹内選手の解説も分かりやすかった

まさかまさかの連続フォール

各選手、序盤から現れるシビアなホールドを慎重に繋いでいく。
そして、11手目、コンペの魔物が牙をむいてきた。

10手目の悪いホールドを保持しつつ、次のホールドを浮きアンダー(アックスのヘッド部分を壁に接触させないアンダーのこと。別名パワーアンダー)で止めに行くのだが、ここでほぼ全員がフォールする事態となった。

田名網選手はマッチした瞬間にフォール
ヘルメットロストの竹内選手。まさかのフォール
続く橋本選手も同じ箇所でフォール
森田選手はあえてロング持ちで入ったが止めきれずフォール

各選手本当に僅差で、浮きアンダーの状態で身体を安定させられたかどうかがジャッジの分かれ目となった。
この核心部でアックスマッチすることができたのは田名網選手、竹内選手の2名だった。そして

中島選手の独壇場となった準決勝

登攀順の最後に出番のきた中島選手が唯一この核心部を突破した。アンダー体勢での保持が危険と判断し、一手戻ってからホールドスキップをトライし、見事に成功。その後、順調に高度を稼ぎ、上部のチェーンまで登り詰めた。的確な危険察知能力に加え、柔軟な対応力を見せ、準決勝では頭ひとつ抜けるパフォーマンスを披露した。

終盤チェーンに手を伸ばす。

ピリカカップB〜決勝〜

決勝課題はリーシュコード無しで、よりIWCに近いスタイルで行われた。
上部パートではクライムダウンを繰り返すこととなり、フィジカルへの負荷が非常に強く、かなりの持久力が求められる課題だ。

スタートからフッキング難易度が高いホールドが続き、徐々に高度をあげていく。
今回躍進の田名網選手は、序盤のセクションをフィギュア4をうまく使って対処していた 。結果的に中盤で力尽きることになったが、堂々3位。ハイパフォーマンスを披露した。

フィギュア4を繰り出す田名網選手

登るより降りる方が難しい

中盤になると、ほとんどルーフに近い強傾斜のなかでムーブを強いられる。
フィギュア4、9を使って距離を出していき、指定のホールドにマッチすると、そこからクライムダウンとなる。

傾斜で耐える竹内選手

クライムダウンは通常と違い、使う筋肉が変わるため負荷が高い。
加えて、上がるときにセットしたクリップを解除しつつ降りていく必要があるのでかなり消耗させられることになる。

このセクションでの戦いに残ったのは竹内選手と中島選手。両者とも最初のクリップ解除で苦戦。ここはクライムダウンする前にクリップ解除するのが正解のようだ。
中島選手は試行錯誤の末、一度上部に戻ってからクリップ解除するムーブを選択した。

中島選手のクライムダウン

クライムダウンが終わり、次の指定ホールドを目指す途中、アンダーでホールドを保持しながらのハードムーブに耐えきれず、両者とも同じ箇所でフォールした。

ルートセッターによるエキシビジョントライ

最後にルートセッターの奈良氏によるお手本トライが行われた。素手でアックスを持ち、その圧倒的なパワーとテクニックで会場のボルテージが最高潮に沸いた。

奈良氏による圧巻の登攀。

リザルト

ピリカカップでは仲間と楽しむというところに主眼をおいているため、表彰台という形で順位をつけることはしないが、各カテゴリで最も成果のあった選手に記念品が贈られた。

まずは完登数最多の7登を記録した、松永選手がチャンピオンとなった。早い時間から登攀を開始し、多くの課題に触り楽しむことができたのが最多記録につながったのだろう。

IWCチャレンジ勢のピリカカップBでは同率で中島選手と竹内選手が優勝。
両名とも国内コンペではセッターを務める機会が多く、プレイヤーとして国内コンペに登場したのは久しぶりとなった。

最後に特別賞(奈良賞)として今大会最高齢チャレンジャーの川越選手が表彰された。
強度の高い右側の課題に果敢にトライする姿が印象的だった。

入賞者にはゆめぴりかが贈られた

過去最多参加者

今回特筆すべき点はこれまでのドライツーリング関連の催しでは最多人数となる53名が参加したことだろう。北海道民の参加が39名。北海道以外のエリアから14名(そのうち7名はピリカカップB枠で参加)。

奈良氏の人徳による影響力はもちろん、アイスクライミングを楽しむ人口数が多い土地柄、その他諸々の要因があったことだろう。

とにもかくにも本催しの趣旨の通り、大盛況となった。

会場の俯瞰
会場の様子

まとめ

アックスを持つのが初めてという人から、IWCに挑戦する現役選手まで、多様な参加者が楽しめる工夫が随所に現れたイベントとなっていた。

会場にはDJブースもあり、音楽を楽しみながらレッドブルを飲み、課題に挑戦するといったことができ、宴として楽しむことができた。

コンペ課題はそのまま残るということなので、北海道民の方はもちろん、道外の読者諸氏が北海道旅行をする際には、ぜひ登攀道場美唄の訪問をスケジュールに入れてみてほしい。

体育センターの使用ルールは以下を参照

DJブース
レッドブル大盤振る舞い
東京のドライツーリング愛好会の皆さん。お揃いユニフォームで参加
登攀道場があるのは総合体育館の方ではなく体育センター
本記事掲載の写真提供:
@ピリカカップ参加者の皆様