第二戦は持久力勝負!エンデュランスキング決定戦

中島正人率いるTMGCドライツーリング普及委員会が主催するドライツーリングトライアル・シリーズコンペ第二戦”Endurance King”が2022年10月15日、ice point青梅にて開催された。

会場にはミレーのバナーが掲げられた

持久力診断となった特異なコンペ

今大会のコンセプト

毎回異なるコンセプトで展開されるシリーズコンペだが、今回のテーマは持久力。技術的な難易度はそれほど高くなく、求められるのは耐える力だ。制限時間内でひたすらムーブをおこし、一手でも多く出したものが勝者となる。エンデュランスキングの称号は一体誰の手に渡るのか。

順番待ちを控えたアックスが緊張感を醸し出す

今大会のルール

課題は2ルート。予選・決勝という区分を設けず、2ルートを2回ずつトライし、計4トライの合計ポイント数で勝敗を決定する。

進んだ手数に応じてポイントを獲得できる。9手までは1手につき1ポイントが付与され、 10〜19手まで1.1ポイント、20〜29手までは1.2ポイント…と以降10手ごとに0.1ポイントずつ加算される方式だ。

2ルートともに、設定されている31手目のホールドがゴールとなるが、これに到達した場合、再び逆順でルートを戻ることによりさらにポイントが加算される。つまり獲得できるポイント数に上限はないのだ。

その他、基本ルールは以下の通り

  • 各ルート制限時間5分、フラッシュトライ(デモ登攀あり)。
  • トライ順はくじ引きで決定。
  • ボルダー長手スタイル、クリップなし
  • 2分以内にフォールした場合、リトライ可。2回目のフォールで即終了。
  • 装備はアイスアックス、フルートブーツ、ヘルメットとする。
  • 指定ホールドを番号順にアイスアックスまたは素手で保持する。ホールドを飛ばすことは禁止。
  • ハリボテや各種オブジェクトを手足でプッシュすることは可。指定ホールド以外は使用禁止。
  • ツールロストした際、着地せずに回収すれば継続トライ可。

ルートセッター

中島正人

ドライツーリングコンペのシリーズ3戦を通して、ルートセッター兼ジャッジを務める。

自身もコンペティターとして活動しているが、今大会では参加者たちにお手本として、デモ登攀を見せてくれた。これまでに例のないシンプルなルールを採用し、参加選手のチャレンジ精神を刺激する。

また、最近、日本で最難課題となるドライツーリングルートを開拓した。その話はまた別の機会に紹介したい。

注目選手の紹介

今大会は10代から70代までの幅広い年齢の選手が集まった。各々のバックボーンは百花繚乱であり、様々なストーリーがあるのだが、今回は数名の注目選手に的を絞って紹介したい。

向井黄河

栃木県小山市のクライミングジム「プロストクライミングクラブ」のオーナー。ジム内にアックスが使える壁を作ったことで、栃木に新しいドライツーリング旋風を巻き起こす。屈強なフィジカルを武器として今大会に臨む。

吉田隼和

プロスト門下生として、今大会にエントリーした超新星。なんとまだ中学生。ドライツーリングコンペに参戦した選手としては、おそらく歴代最年少と思われる。計り知れないほどのポテンシャルを感じさせる。(※保護者様同伴のもと今大会に参戦しています)

川越賢二

『ゴエ様』の愛称で親しまれ、かつてビギナークラスのコンペで優勝も経験している情熱のコンペティター。久しぶりにコンペの舞台に帰ってきた。70代の選手として、エンデュランス勝負に挑む姿勢に感服しつつ、そのパフォーマンスに注目が集まる。

森田啓太

ドライツーリング界の鉄人。日々、過剰なトレーニングで周囲を仰天させるが、最近は見慣れてきた人も多いとか?今大会のコンセプトと自身のプレースタイルが最もマッチした選手であり、その圧倒的な持久力でIWC選手たちとの真っ向勝負に期待。

阿由葉真穂

先日の女子限定のドライツーリングコンペでは練習の成果を見事に発揮した。今大会の女子選手のエントリーは僅か3名だが、その存在感は着実に強まっている。得意の空中戦パートでの活躍に大いに期待したい。

コンペレポート

ルート1〜勝負は空中戦!

ファーストトライは拮抗勝負

1課題目は主に110度の緩傾斜壁で20手ほどのムーブをおこしてから、吊るされたオブジェクト(キューブとチェーン)を渡り、再び緩傾斜壁に戻ってくるルートだ。

最初の9手までは非常に易しい構成となっているが、10手目以降は様相が一変する。更に20手目以降から空中戦になるのだが、半数の選手はそこまで辿り着けず、力尽きてしまう。

基礎体力がなければ20手までも耐えきれない

IWC出場を志す森田修弘、上原久美子の順番で競技が開始され、両者とも空中戦を巧みにこなし、難関である吊るされたチェーンの渡りを突破。復路で再びチェーンを渡るのだが、ここが核心となり、タイムアップ。8人目に出番のきた優勝候補・橋本翼のトライにも注目が集まったが、やはり同じ箇所で阻まれ、3者がお互いにトップを譲らない出だしとなった。

その他に往路のチェーンを突破したのは、会心の登攀を見せた内山紀貴と、森田啓太の2名だけであった。

IWCを志す選手たちはお互いに負けられない

セカンドトライで試されるスキル

2回目のトライでは、本日好調と思われた内山紀貴がまさかの序盤でフォール。その他にも1回目のトライより手数を進められない選手が目立った。持久力の問題もあるが、戦いの中での修正力とでも言うべきスキルが試される結果となった。

思わぬところでフォールする選手も

ミエナイチカラ

そんななか、修正力を見せてポイントを大きく伸ばしたのは森田啓太だ。1回目のトライでは、チェーンの小さい的を捉えることに苦戦したが、2回目は老眼鏡を装備した。それまでぼやけて見えなかった視界が改善したのか、難なくアックスを決めて、核心部を渡り切った。持久力ではIWC選手たちと対等に競い合い、この回では3位に位置付ける大活躍を見せた。

何故に1回目から老眼鏡を使わなかったのかという質問はなしだ

ツールロストからの復活劇

2回目のトライでは、吉田隼和がツールロスト(アイスアックスを落下させるエラー)を起こしてしまうシーンもあった。今大会では、着地せず自力で回収すれば続行可能というルールに基づき、足を駆使して落下したアイスアックスを見事に回収した。諦めない姿勢と気持ちの強さで会場を沸かせた。

執念でツールロストから脱却

己との戦い

1課題目で最高到達点をマークしたのは橋本翼の2トライ目だった。復路のチェーンで高度を稼いでからムーブをおこし、時間ギリギリであったが核心部を突破。記録を37手目に伸ばした。

残り数秒で核心を突破

ルート2〜強傾斜とメタルホールド

強度の高いルート構成

2課題目は垂壁からスタートするため序盤は易しいのだが、120度の傾斜壁からルーフを経由して、再び120度の傾斜壁に戻る構成となっており、やはり20手目以降の負荷が高い。

ルーフに辿り着けない選手も少なくない。前半の傾斜壁を余裕で動き続けるだけの持久力は必須となる。

傾斜ではじわじわと体力が削られる

終盤を華やかに彩るメタルホールド

26手目以降はロシア製のメタルホールドが連続し、それもシビアな角度で設置されている。これを保持するためにはフィジカルの強さが必要だが、ここに至るまでに消耗した体力、残された時間を考えると一手の負荷が非常に大きい。

1課題目で好調だった森田修弘、上原久美子を上回るパフォーマンスを見せたのが田名網宣成だ。ここまで目立つシーンは少なかったのだが、テンポ良く空中戦をこなし、終盤のメタルホールドも見事に抑え込んだ。1トライ目では、橋本翼には届かなかったものの森田啓太と同じく2位タイまで躍進した。

気の抜けない極悪ホールドが続く終盤

持久力勝負のセカンドトライ

2回目の難しさはやはりあるのか、半数の選手が調子を落とし、記録を伸ばせない。また、本日4本目ということもあり、単純に体力的にもキツくなってくる頃合いだ。

首位を独走する橋本翼は自分との戦いとなっており、時間ギリギリで一手記録を伸ばすことに成功。最高到達度を更新した。森田修弘は1回目のトライでのミスをしっかり修正し、大幅に手数を伸ばした。ここまで中位に甘んじていた向井黄河も最後のトライで意地を見せ、ルーフパートを攻略した。

こうして長時間にわたる激闘は終了した。

上位争いは熾烈
最後の力を振り絞る

リザルト

男子入賞

橋本翼が2連覇。優勝という結果よりも個人としてのパフォーマンスにこだわりを持っており、今回も異次元の強さを見せた。しかし本人は満足していない様子だ。

2位争いは森田対決となったが、僅差で修弘が制した。前半は細かいホールドを捉えるのに苦戦した啓太も後半に老眼鏡を装備し、猛烈な追い上げを見せた。

入賞こそ逃したが、4位の田名網宣成も要所要所で入賞者を上回るパフォーマンスを見せた。今後も熾烈な争いから目が離せない。

RANKNAMEPOINT
1橋本翼189.8
2森田修弘172.7
3森田啓太165.2

女子入賞

女子は上原久美子が圧倒的な強さを見せて、2連覇を達成。続く阿由葉真穂は1位との差はあれど、好調な仕上がりで2位。原顕子も善戦した上での3位となった。

全員の入賞が確約されていたが、各々が甘んじることなく素晴らしいパフォーマンスを発揮したことに賛辞を送りたい。今後、女子選手の参加がもっと増えると嬉しい限りだ。

RANKNAMEPOINT
1上原久美子159.6
2阿由葉真穂102
3原顕子96.6

総合順位

シリーズ通算順位

まとめ

持久力がテーマとなった今大会。前回のスピードとは違い、付け焼き刃の練習では誤魔化しが効かない要素が非常に多く、日頃しっかりとトレーニングをしてきた者が成果を発揮する結果となった。

ルートの難易度も手を進めていくほどに上がっていく設定となっており、現れる難所を突破していく楽しさが選手達には感じられただろう。
前日遅くまでセッターと共にルートの難易度調整をしていた陰の功労者にも感謝したい。

次回はいよいよ最終戦。
テクニカルマスターということで「技」を競う戦いとなる。
シリーズ通算の結果にも注目したい。

本記事の掲載写真提供元:
参加者の皆様、@a.y.u.hearn様