2022年2月18日~20日、フィンランドはオウルにてヨーロピアンカップ第6戦が行われた。ヨーロピアンカップとしては最終戦となる。
またこの大会はヨーロピアンチャンピオンシップスも兼ねている。
ちなみにヨーロピアンカップはリード1種目。
ヨーロピアンチャンピオンシップスはリードとスピードの2種目となる。
オウルという都市
フィンランドといえばムーミン、北欧家具といったイメージがあるが、オウルはハイテク産業が集まる北欧のシリコンバレーと呼ばれるフィンランド第4の都市だ。
また、エアギター選手権の地としても知られる場所でもある。
首都ヘルシンキから600km北に位置し、緯度的に北極圏に入るため、この時期は常に氷点下で、日中の平均気温はマイナス9℃となる。
時差は7時間。
日本で14時とすると現地では7時となる。
この極寒の地、オウルでの戦いに日本から唯一、竹内春子が参戦した。
その模様をレポートしたい。
オウルの構造体
オウルの壁は全体的に線が細い。
リヒテンシュタイン公国マルブンの壁のようにアーチ状になっているが、オウルのそれは、コンパネ1枚分およそ180cmにプラスアルファしたくらいの幅だろうか。垂直に登らせてからルーフに近い強傾斜を長く進ませるような構造になっている。そのルーフにはつららの形に似た大型のボテが複数付いており、これを使ってメインとなる柱へ渡っていく。
氷柱を模したメインの柱部分も太さはあまりなく(270cm程度か)、シビアなホールドを繋いで上へ上へと進ませるような造りとなっている。
竹内春子リザルト
種目 | 順位 |
---|---|
リード | 9位 |
スピード | 16位 |
リード種目の順位について。
今回はヨーロピアンカップのため、ヨーロッパの選手以外、公式サイトのリザルトから名前が消えてしまうが、配信で確認する限りでは10クリップで6位につけているように見えた。
しかし、ヨーロピアンチャンピオンシップスの括りでは公式サイトに順位が載っており、こちらでは9位となっている。映像を確認すると下部でスリップしたときに右足がバウンダリーを越えたエリアに当たってしまったためか、そこで競技終了の判定をとられているようだ。
とはいえ、強豪ロシアの選手が複数名いる中、かなり勝負できていたのではないだろうか。国際大会での経験が、確実に彼女を強くしているように思う。
スピード種目では予選を突破しベスト16入りを果たしている。
配信時の映像はこちら
竹内春子奮闘の模様は以下から確認できる。
どちらの種目映像も、前半はユースのトライ。後半からシニアのトライとなる。
リード
竹内春子の登場は3:32:31あたりから。
https://youtu.be/g7Qn2jF02tI
スピード
1本目 1:54:37
2本目 2:10:39
https://youtu.be/sWb0V-B1DTI?t=6877
敢えての銀アックス
竹内春子の使用ツール、リード種目では通常「オクタ」と呼ばれる金色のアックスを使用しているが、今回は銀色のアックスを使用していた。
これは「アイスオクタ」と呼ばれるもので、金色のオクタよりも短いつくりになっている。
何故このアックスを選んだのか?これには戦略的な理由があった。
今回の課題は、ユースと同じ課題と事前に判明しているため、比較的1手が短く設定されていると判断。短いアックスを選択し動きやすさを優先した。
クリップを先行させずに腰の位置でクリップする意識で臨むことで、クリップ時に省エネとなる。
その甲斐あって予選を5位で通過!2課題中1課題終わった時点では9位であったが、見事に巻き返したかたちだ。
女子リード決勝課題の振り返り
女子決勝課題はスタートからフィギュア9フィギュア4を使ってトラバースしていく渡りを強いられる。
ここを突破し僅かにアイスに触れてから、メインとなる構造体を登っていく。実質4クリップ目から勝負が始まるといっていいだろう。
5クリップから8クリップまでシビアなホールドが続き、そこから11クリップ目までは一手一手が遠くなる。特に最初の核心となったのは10クリップしてからのボテ下につくホールドからの一手で、竹内春子含めファイナリストの半数近くがここでフォールしていった…。
12クリップから先は時折シビアなホールドがありつつも、いくつかのホールドは飛ばせる距離感で設置されており、残り時間内でいかに効率の良いムーブができるホールドを選べるか、判断を問う課題となっていた。
順位 | 名前 | 国 |
---|---|---|
1位 | Tolokonina Maria | RUS |
2位 | Vlasova Ekaterina | RUS |
3位 | Glotova Daria | RUS |
トロコニナ・マリアは不動の1位。流石の実力を見せつけた。
2位のヴラソヴァ・エカテリーナは19-20シーズンのワールドカップランキング3位の実力者。安定した強さがある。
3位につけたグロトヴァ・ダリアはユース枠としては堂々の1位。17歳にしてシニア枠でも上位に入る実力は相当なものだ。
それから表彰台を惜しくも逃したが、ポーランドのコゼック・オルガが予選7位から4位へ躍進している。
地元フィンランド代表のバトリン・エンニが5位。
男子リード決勝
順位 | 名前 | 国 |
---|---|---|
1位 | Duplinskiy Georgy | RUS |
1位 | Kuzovlev Nikolai | RUS |
3位 | Malshchukov Vadim | RUS |
デュプリンスキー・ジョージとクゾブレフ・ニコライが同率で1位。
K・ニコライは上位常連の選手、D・ジョージは19-20シーズンでは名前をあまり見かけなかったが、今シーズンはいくつか好成績を出しており、力をつけてきた様子が伺えた。
3位のマルシュコフ・ヴァディムも相当強い。
男子リード決勝課題の核心部は2つ。
1つ目は12クリップした後の黒いホールドが2つ配置されている箇所だ。
ルーフを渡り切り構造体の角を2手ほど上がった後、壁に対し正面を向く体勢になったところでフッキングの角度が変わるためか、このホールド2つが意外と牙をむいてきた。
アレックス・デンジン、アレキサンダー・カランダシェフ、イヴァン・ロシェンコ3名がその餌食となった。
もう一つは15クリップ後の赤いホールドがほぼ同じ高さに2つ配置されているところ。
この高さまでくると女子決勝課題とホールドが共用になっていて、男女共に苦戦を強いられていた。
右のホールドに対し左手でレイバックで入っていき、右手に持ち替えたあと、左のホールドの左側にフッキングしてから身体を右に倒していく…というムーブとなっていた。
一時的にフッキング方向と逆に力が加わるためアックスが外れてしまう可能性が非常に高くなる。
しかしここは抜け道が存在し、左手でレイバックに入ってから上部のボテにつくホールドに手が届いてしまえば上記のような難しいムーブを起こさなくて済む。
M・ヴァディムとD・ジョージはそこに気づき、すぐさま切り替えて上のホールドを取りに行ったのは流石といえる。
ちなみにK・ニコライは難しいムーブをしっかりと決めて突破していった。
見どころとしてもう一つ、残り30秒、圧倒的な速さで最終ホールドまでの4手と2クリップを行ったD・ジョージの動きは必見だ。
残す戦いはW杯のみ
竹内春子単独での挑戦となったヨーロピアンカップ最終戦。
判定はともかくとして、シビアなホールドが続く課題であそこまで力を発揮できたのはかなりの収穫となっただろう。
残りの戦いはいよいよワールドカップとなる。
次の大会も大いに期待しよう。