【国際大会レポート】UIAAアイスクライミングヨーロピアンカップ2022-2023 第2戦チェコ ブルノ

2022年12月3日、チェコ共和国のブルノで、UIAAアイスクライミングヨーロピアンカップ第2戦が行われた。

今大会に挑戦した3名の日本人選手の活躍をレポートしていく。

ブルノの街

ブルノはチェコ第2の都市としばしば言われている。
チェコといえばプラハがメジャーだが、ブルノも負けず劣らず歴史的建造物や美しい観光名所が多い。
また、クライマーにとってはあまりにも有名なアダム・オンドラの住む街である。
オーストリアのウィーンから列車で90分。
ヨーロッパドライツーリング旅の際は是非寄ってみたい街だ。

日本との時差は8時間。日本のほうが8時間進んでいる計算だ。

コンペ会場

森の中に佇む人工物

ブルノの壁は、ブルノダムの放流口のすぐ近くにある。
未完成の橋脚を利用して造られた、度肝を抜く壁だ。

会場の雰囲気

会場にはアップ壁、アイソレーションルーム、物販ブースなどがある。

アップ壁
パンチホールの空いた鉄板
ピックとフロントポイント販売
アイソレーションルーム

予選結果

予選のルート解説
photo by Robert Hendriksen
#thatcrazydutchguy

予選は5ルート(内3ルートがトップロープ)のフラッシュ方式。
一日で決着させるため、早朝から夜までの長丁場となる。

中島正人が5位/53ポイント、竹内春子が7位/27ポイントで予選通過。 橋本翼は14位/44ポイントで、惜しくも予選敗退。

通常は上位8名が決勝進出となるが、UIAA競技アイスクライミング委員会との合意により、決勝戦は国籍や出身地に関係なく、最大10人が出場可能だ。

そのため、9位/48ポイントのデニス・ヴァン・フックを、橋本翼がポイントで上回れば決勝に進むことができたので、数ポイント差の惜しい結果となった。

左から中島、橋本、竹内
photo by Robert Hendriksen
#thatcrazydutchguy

ファイナリスト達

決勝は17時を過ぎてから開始。
ファイナリスト紹介の後、男女ともオブザベーション開始。

女子ファイナリスト
男子ファイナリスト
すぐにオブザベーション開始

配信動画

登攀直前のサムズアップ

竹内春子、中島正人奮闘の模様は以下から。

竹内春子登場は00:49:00。
中島正人登場は01:16:36。

日本人選手結果

順位名前ポイント
4位竹内春子16.32
9位中島正人1.052

竹内春子は順調に高度を稼ぎ、最終セクションに入るところでタイムアップ。
表彰台まであと1手というところであった。

惜しくもタイムアップ

中島正人は序盤でまさかまさかのフォールとなった。
予選でかなり好成績だったこともあり、チカラを出し切りたかった。

石ホールドは滑りやすい

決勝の見どころ

決勝ルートは橋脚を上がり、キューブを2つ渡る。
そこからさらに上部の最終セクションへ行きトップアウトとなる。

総クリップ数は19。
男女ともルートが上部で共通となる作りだ。

最終セクション
右側のラインが決勝ルート
決勝ルート上部
決勝ルート下部

フッキングの精度が超重要

女子ルートはオレンジ色の樹脂ホールドを使って登っていくが、どのホールドも繊細なフッキングを要求される。
一つとして簡単に手を出せるように配置されておらず、アックスを効かせつつ慎重にムーブをおこしていく必要がある。

ボテが邪魔でフッキングポイントが見えない箇所 リスキーなムーブを出すことも必要になる

実際半数の選手が下部のホールドで不意に落ちる結果となった。
ファイナリスト常連のオルガ・コゼックやホームのアドバンテージがあるチェコの選手アネタ・ロウゼッカなどがフォールしている。

肉まんホールド

男子ルートは女子ルートとクリップ数は同じだが、スタートの位置的に、橋脚を4分の1周することになるため、トラバース距離が長い。
道中、面が変わる部分があり、フッキング方向が変わるため注意が必要だ。

序盤では肉まんのような白く丸いホールドが頻出。
鉄板と石が合体しているのが特徴の、スマートストーンホールドだ。

パッと見同じような形状をしているホールドが続くが、フッキングポイントにいくつかパターンがり、対処を誤ると簡単に外れてしまう。

幸い、ホールドの前面にフッキングポイントを示すマークが付いているので、マークを見て対処することが可能だ。
事前にホールドを知り、対策しておければ有利に手を進められるだろう。

新たな見せ場「ハンドジャム」

ここ数年はランジをさせて見せ場を作ることが多かったが、今回はクラッククライミングのテクニックである、ハンドジャムを使って突破する箇所が一つの見せ場となった。

男子ルートの、連続スマートストーンを突破していった先にそれは現れる。

たどり着いた8名の中で、3名はここでフォールしてしまっている。
クラッククライミング経験の有無が大きく左右される場面だ。

他にも所々ホールドを手で掴んでいく選手が男女共に散見された。
ホールドを手で掴むことができれば、次の手が近くなるメリットがある。
一方でグローブを装備した手でホールドが保持できるのか、といったリスクを抱える行為でもある。

今回のルートセットは手を使わせに来ているのか、それともワナとして用意したものなのか、セッターの意図に思いを巡らせるのもまた一興だ。

リザルト

女子リザルト

順位名前
1位フランチェスカ・ショーンバクレールSUI
2位マリアンヌ・ヴァンデル・スティーンNED
3位マリオン・トマスFRA

フランチェスカ・ショーンバクレールは昨シーズンのワールドチャンピオンシップで3位、ヨーロピアンカップで総合4位に入る実力者だ。
カラフルなタイツがトレードマークのマリアンヌ・ヴァンデル・スティーン。初戦のジリナで首位、今回2位と好調だ。
マリオン・トマスは流石の登り。初戦のジリナで2位、今回3位となり、マリアンヌ・ヴァンデル・スティーンと総合優勝を競うかたちになった。

photo by Robert Hendriksen
#thatcrazydutchguy

男子リザルト

順位名前
1位ヴァージル・デヴィンFRA
2位ベンジャミン・ボスハルトSUI
3位バジル・フェテFRA

昨シーズンヨーロピアンカップ同会場でも首位となったヴァージル・デヴィン。初戦ジリナでの8位から大きく順位を上げた。
2位のベンジャミン・ボスハルトはユースで活躍していた選手。スイス勢の若きエースとして着実に結果を出している。
バジル・フェテは身長165cmながら、昨シーズンのヨーロピアンカップに引き続き、安定して高い順位をキープしている。

photo by Robert Hendriksen
#thatcrazydutchguy

まとめ

今大会はあくまでもヨーロピアンカップとなるため、日本人選手の順位は幻の順位となってしまうが、国際大会という大きな舞台で、自分たちがどこまで通用するか知るという点において、非常に価値が高い大会となった。

日本人選手のレベルは確実に上がってきている。

次はいよいよワールドカップ初戦が韓国で行われる。
初戦からクライマックスとなるか、期待が高まる。

オマケ1:魔改造アックス

特異なハンドル形状のアックス
photo by Robert Hendriksen
#thatcrazydutchguy

ジャン・モンジェレフスキ(POL)のアックスのハンドルが奇妙な形状をしていた。
国内でも自分好みに改造する者がいるが、想いは万国共通のようで、親近感がわく。

オマケ2:カナダからルーマニアへ

photo by Robert Hendriksen
#thatcrazydutchguy

昨シーズンまでの国際大会ではカナダの選手として出場していたデイビッド・ブファードだが、今シーズンはルーマニアの選手として出場していた。
聞くところによると、ルーマニアの人と結ばれたという。
思わぬ形で選手のライフステージの変化を知ることとなった。
こういう発見があるのも、国際大会観戦の面白さの一つだろう。