2023年1月28日、29日、IWC最終戦がスイスのザースフェーで行われた。
最終戦にふさわしく劇的な競技展開となった。
アイスドーム内の様子
予選結果
リザルトを参照すると下部で落ちている選手が多数見られる。
参戦した笹川淳子によると、「フリーのムーブような課題だった」とのことだ。
リザルト詳細は以下を参照(外部サイトに遷移します)
序盤に潜む魔物
特に女子の2ルート目は半数近くの選手が2クリップ程度でフォールする事態となっていた。
確認すると確かにホールドやボテを手で掴んで登る箇所があり、ジムナスティックなムーブを繰り出している様子が映っていた。
ちなみにデモ動画のクライマーは数シーズン前に活躍したスイスのファンタジスタ、ヤニック・グラットハードだ。
メタルホールドはかなりフッキングが難しいものが使われており、予選から一筋縄ではいかないルートとなっていた。
日本男子予選リザルト
順位 | 名前 |
---|---|
14位 | 門田ギハード |
20位 | 中島正人 |
30位 | 伊藤権次 |
門田ギハードが上手くこの課題を制して予選を突破した。中島正人も善戦したが、予選突破ラインには届かなかった。
日本女子予選リザルト
順位 | 名前 |
---|---|
12位 | 竹内春子 |
17位 | 上原久美子 |
27位 | 笹川淳子 |
32位 | 市川倫子 |
日本選手最注目の竹内春子は危なげなく予選を突破した。
上原久美子は素晴らしいパフォーマンスを発揮したが、惜しくも予選通過とならなかった。1課題目があと1クリップ進められていたら予選突破が叶ったかもしれず、悔しいところだ。
市川倫子、笹川淳子は序盤のホールドの餌食となり、見せ場がなく終了となった。
ザースフェーのルートの特徴
スイスの会場となるアイスドームでは、構造上垂壁部分がルートの大半を占める。
ゆえに、ホールドで難易度を調節する傾向が強く、下部からフッキングの厳しいホールドが連続するのが特徴だ。
壁の形状自体は毎回変わらないため、過去の映像からどのような傾向があるか読み取り、その会場に合った戦術をとることも出来そうだ。
スピード 予選~ファイナル
スピード種目は大会初日に、予選からファイナルまで一気に行うスケジュールとなっていた。
ライブ配信はファイナルの様子。
スピードに参加した日本選手は男女合わせて5名。
日本男子スピード順位
順位 | 名前 |
---|---|
32位 | 中島正人 |
中島正人は残念ながら最下位となった。
先の2会場では10数秒台の記録を出せていたが、ザースフェーのスピードウォールは登りにくいのか、20秒台よりも速度を出すことができなかった。
日本女子スピード順位
ファイナル順位 | 予選順位 | 名前 |
---|---|---|
12位 | 9位 | 市川倫子 |
13位 | 11位 | 上原久美子 |
14位 | 14位 | 竹内春子 |
16位 | 15位 | 笹川淳子 |
女子も中々難しい状況で、予選で市川倫子が9位となり良い位置につけるも、ファイナルでは上位に食い込むことはかなわなかった。
しかし、ザースフェーのスピード壁は男女含めた全体のタイムを見ても、あまり速度が出ていないようで、登りにくい印象だ。
女子は男子に比べファイナルに行けるタイミングが多く、その分本番でのトライ数を稼ぐことができている。この経験を活かして、今後のスピード種目対策を強化してもらいたい。
あとは会場特有の対策を練って挑めれば突破口が見えるかもしれない。スピード競技は今後に期待したい。
じわり頭角を現すリヒテンシュタイン公国の選手たち
今シーズンのIWCスピード種目では、リヒテンシュタイン公国の選手を目にする機会が多くなった。
人口わずか4万人弱のこの国から、ベック姉妹とガントナー兄弟の4名が参加。全員がリードとスピードの両方にエントリーしている。
ロシア選手がいない影響ももちろんあるが、特にスピード種目で上位に入っており、着実に実力をつけている印象だ。
リード種目でもセミファイナル進出を争う位置にいるため、今後どちらの種目でも強国となるポテンシャルを感じる。
スピードリザルト
男子リザルト
順位 | 名前 | 国 | タイム |
---|---|---|---|
1位 | ベヘシュティ・ラド・モーセン | IRI | 7.60秒 |
2位 | サフダリアン・モハマドレザ | IRI | 8.07秒 |
3位 | フロリアン・ガントナー | LIE | 8.61秒 |
ひとり7秒台を叩き出したのは、王者ベヘシュティ・ラド・モーセン。
目の覚めるような速度は必見だ。
第一戦で負傷したサフダリアンが調子を取り戻し2位。
3位、リヒテンシュタイン公国のフロリアン・ガントナーが上位陣の仲間入りとなった。
女子リザルト
順位 | 名前 | 国 | タイム |
---|---|---|---|
1位 | リア・ベック | LIE | 15.65秒 |
2位 | マリオン・サロモン・トマス | FRA | 18.93秒 |
3位 | ヴィヴィアン・ラバリル | SUI | 19.09秒 |
ベック姉妹の姉、リア・ベックが3本目の最終登攀で見事に逆転勝利となった。
多くの選手が3本トライの内、どこかでフォールすることが多い中、フォール無しで安定した速度を出したマリオン・サロモン・トマスが2位。
1本目で19秒台を出したヴィヴィアン・ラバリルが3位。
4位以下の選手は20秒を切っておらず、入賞した選手たちとの差は大きい。
リードセミファイナル
セミファイナルでは、男女ルートともに多くの選手が同じところでフォールする事態となり、かなりの混戦となった。まったく予想できない展開だったこともあり、多くのライブ視聴者が興奮したことだろう。
男子ルートの核心
混戦の原因となったのは、男子課題の7クリップしたところのムーブだ。
ボテについた意地の悪いボールホールドにフッキングしながら、かなり高い位置にある掛かりの浅いインタレクトホールドをアンダーでとるというものだ。
混戦で順位を上げた門田ギハード
日本男子選手で唯一セミファイナルに進出した門田ギハードも多分に漏れず、インタレクトホールドを保持できずフォールしてしまった。
しかしその後も多くの選手が続き、同じ箇所でのフォールが続出。蓋を開けてみれば、9位となり順位を上げた。惜しくもファイナル進出はならなかったが、ドラマティックな展開となった。
この箇所を突破したのは以下の5名
- キーナン・グリスコム
- トリスタン・ラドヴォン
- パク・ヒヨン
- ベンジャミン・ボスハルト
- ルーナー・ラドヴォン
女子ルートの核心部
ボテをつかんでからのトラバースで、普通に手を伸ばすだけでは、次のホールドが到底届かない位置にある。
高い技術を見せた竹内春子
トップアスリート達が次々とフォールする中 、竹内春子が問題の箇所を見事なムーブで突破した。ボテを上手く掴みながら、冷静に右足を低い位置に運び、その後は思い切ってアックスを伸ばした。4位に順位を上げて、ファイナル進出を決めた。
リードファイナル
イチかバチかのダイノ
ファイナルはマリオン・サロモン・トマスからスタート。
順調に高度を稼ぎ、核心となるダイノへ…。
しかし残念ながら失敗に終わった。
次々とダイノを決められず選手たちが散っていく中、ついに竹内春子のトライ。
2度飛びかかるも届かず、3度目の跳躍でフォールとなった。
女子ルートは結果的に唯一ダイノを決めたシーナ・ガッツが圧倒的勝利となった。
前戦の悔しい判定から雪辱を果たし、文句なしの一位に輝いた。
今まで女子のルートではそこまで大きく飛ぶシーンはなかったが、今大会では明確に跳躍することが求められた課題だった。
大胆に動けるかどうかが勝負
男子ルートは下部から、いきなりのビッグリーチを決める必要がある。
最初の挑戦者バジル・フェテはカンテを上手く使ってこれを回避するも、次のホールドが止められずフォール。
面白い発想だっただけに惜しい結果だ。
その後の選手達は、正攻法で長大な一手を決めて突破。
少し左上して、次に待つのはアンダーの一手だ。
かなり突っ張りを効かせる必要がる中、足元は揺れるキューブを蹴り込むことになり、安定感が低い。
そのあと待ち構えるのはボテを手で掴んで身体を上げてからのアンダーだ。
ここでも相当な力を吸われることになる。
大胆に動きつつもホールドは常にシビアな状況だ。
手足の長さを活かしてベンジャミンはこのアンダーを回避。
ルーナーはアンダーで保持するも次のホールドに飛び掛かる動きを見せた。
そして最後の見せ場となるのがアイスドームの頂点にぶら下がるキューブへのダイノ。
唯一ルーナーがこれを決め、頂上で待ち受けるヤニックから祝杯をもらい、恒例のジャンプで大会を締めくくった。
男子リード表彰台
順位 | 名前 | 国 |
---|---|---|
1位 | ルーナー・ラドヴォン | FRA |
2位 | ベンジャミン・ボスハルト | SUI |
3位 | リー・ヨンゴン | KOR |
女子リード表彰台
順位 | 名前 | 国 |
---|---|---|
1位 | シーナ・ガッツ | SUI |
2位 | マリオン・トマス | FRA |
3位 | ペトラ・クリングラー | SUI |
おまけ情報。アイスツール使用状況
前回に続き、アンカー、ノミック、ASPEEDの使用率が高い。また、かつてヤニックも愛用していたブラックダイヤモンドのフュージョンの初期モデルを使う選手がいたことも印象的だ。
アイスアックス使用率
モデル名 | 使用率 | |
1 | クルコノギ アンカーシリーズ | 18.75% |
1 | ペツル ノミック(ハンドル改造モデル含む) | 18.75% |
3 | ICE ROCK ASPEED(ハンドル改造モデル含む) | 12.5% |
4 | グリベル フォースカーボン | 6.25% |
4 | ペツル エルゴノミック | 6.25% |
4 | カシン Xドリーム(ハンドル改造モデル含む) | 6.25% |
4 | ブラックダイヤモンド フュージョン(初代モデル) | 6.25% |
4 | クルコノギ タバロフ | 6.25% |
その他 | 18.75% |
フルートブーツはお馴染みの2大モデルの使用率が高かった。
フルートブーツ使用率
モデル名 | 使用率 | |
1 | スカルパ レベルアイス | 50.0% |
2 | スポルティバ メガアイス | 31.25% |
3 | アゾロ コンプXT | 6.25% |
その他 | 12.5% |
まとめ
ワールドカップ最終戦は非常に面白い課題ばかりだった。
トライしている選手達はそれ以上に面白味を感じていたのではないだろうか。
今回ヤニックがセットしたような課題の傾向が今後のトレンドとなるかもしれない。
もちろん、ダイナミックなムーブは今後も出てくるだろう、背面に飛ぶ練習が必要だ。
次シーズンのIWCでも、日本人選手達のさらなる活躍を期待したい。
今大会の総合的な振り返りはまた改めてレポートしたいと思う。