激闘!〜UIAAアイスクライミングワールドカップ2020 第2戦 韓国〜【W杯レポート】

2020年1月11日と12日に、アイスクライミングワールドカップの第2戦が行われた。
会場は韓国のチョンソン。
男女合わせて100人の選手達が集まった。
日本からは初戦と同じ顔ぶれの男性5名、女性6名が出場した。

企業ブースや氷の彫刻、マスコットキャラクターなど、フェスティバルの雰囲気もある。

Youtubeのライブ配信がアーカイブされているので、セミファイナルとファイナルの様子をいつでも見ることができる。

リード種目ファイナルの様子

リード種目セミファイナルの様子

スピード種目ファイナルの様子

予選

男女とも予選は2課題ずつ。
日本勢は竹内春子選手と小武芽生選手が予選を突破。

男子は残念ながら予選通過ならず。
リザルトを見ると完登者は少なく予選からハードな設定だったのだろう。
予選通過のラインとしては、2課題とも12クリップ前後出来ればといったところだ。

予選順位

女子

名前 順位
竹内春子 6位
小武芽生 9位
橋本久美子 20位
大塚優希 23位
市川倫子 27位
笹川順子 28位

男子

名前 順位
門田ギハード 22位
橋本翼 29位
中島正人 34位
伊藤権次 40位
森田修弘 41位

女子セミファイナル

3分の1が韓国の選手となったセミファイナル。
各国強豪選手が順当に高度を上げていく中、日本の小武芽生選手が見事な登りを見せた。
薄被り→ルーフ→強傾斜と進み最終クリップ2つ前の13クリップで6位につけファイナルへ進出!

竹内春子選手は、セミファイナルあるあるにより途中からカメラがGlatthard Yannick選手を映し全貌を見ることが出来なかった。
ポイントを確認すると7クリップであったことがわかった。
後から確認したところ、スリッピーなホールドでヤンガー掛けの連続するところを抜け、アンダーでムーブをおこすところでフォールしてしまったようだ。15位の結果となってしまったが、本人曰く、攻めた登りをすることができたと言っていたのはポジティブに捉えていいだろう。

物議を醸した男子セミファイナル

セミファイナルが終わった時点のリザルトをみると、なんと9人の選手が4クリップしたところでフォールする結果となった。
しかも予選で上位通過してきた選手の多くが同じところで落ちることになったのは異例の事態といえる。
初戦の中国大会で見事に優勝したLadevant Louna選手や、自国開催での活躍が期待されるアイスキングことPARK HEEYONG選手がここで姿を消すことになった。波乱の展開だ。

核心となったのは4クリップ後のボテ下に付いているホールドだ。
俗にチャイナホールドと呼ばれるホールドで、円盤状の土台にサイコロ型の石が埋め込まれているものだ。
通常の配置でさえ上から慎重にフッキングしなくてはならないものが、およそひっかからなそうな向きで付いているのだ。

各国選手何度もひっかけては外れ、意を決してムーブを起こしたときに次々にフォールしていた。
そんな中度肝を抜く動きで越えていく選手が現れた。
昨シーズン会場を沸かせたファンタジスタ、Glatthard Yannick選手だ。
他の選手同様何度もフッキングを試みたが、とても身体をあずけられないと判断したのだろう、1手下がりアックスの掛け方をアンダーに変え、そこから一気にチャイナホールドが付くボテの上部を手で保持しそのまま突破していったのだ。

セミファイナル終了後何人かの選手が異議を唱えたが、認められることはなかった。
予選通過時8位だったLadevant Louna選手登攀後に一度ホールドのチェックが入ったが、問題無しとの判断だった。

別の波乱も

ライブ配信時、11クリップまで行ったFoster Liam選手が、リザルトでは5クリップまでの結果となっていた。
後から入ってきた情報によると、クリップ飛ばしがあり、その時点で競技終了となっていたようだ。これがなければKuzovlev Nikolai選手を抜き、ファイナルへ出場していただろう。

ファイナル

注目の小武芽生選手は、3クリップでフォール。7位となった。
ボテ下のホールドから体を振ってヤンガー掛けのホールドをとることは出来たのだが、体重を移し替える時にアックスが外れてしまい、残してある手の方からも剥がれる力が加わり、落ちてしまった。

フリークライマーの活躍

今大会はフリークライミングで大活躍中のSEO Chaehyun選手が6位につけた。アックスはハンドルを改造したリアクターを使っていた。
6クリップした直後、ムーブをおこそうとした時にフォールしてしまった。
映像ではいきなり外れたように見えたが、シビアなホールドのわずかなフッキングのずれにより刃先が動いてしまったのではないだろうか。
アックスを使った登攀は手で登るのと違い、掛かり具合を感じ取るのが難しい。
アックスのフッキング精度があがれば、フリークライミングで成果をあげている選手はすぐに活躍できるだろう。

第二のマリアとなるか

中国大会の時スピードで優勝し、本大会でもスピード種目2位となったBogdan Valeriia選手。
リード種目でもファイナルに出てくる実力を備えてきた。
今シーズンはヘルメットとウェアをTolokonina Maria選手と揃えており、マリアが2人いるのかと一瞬思うほどだ。

ライブ配信では10クリップしたかに見えたが、記録では7クリップ。
アイスバレルのセクションでクリップ飛ばしと判定されてしまったようだ。
順位としては変わらなかったが、Foster Liam選手のようなパターンもあるのでこういったペナルティは注意したいところだ。

混戦の男子ファイナル

ギリギリセミファイナルを通過したKuzovlev Nikolai選手だったが、ファイナルではきっちりと成果を出して13クリップをマーク。
その後、Glatthard Yannick選手やKWON YOUNGHYE選手、Safdarian Korouyeh Mohammadreza選手などがトライ。
12クリップまで迫ったがその先の極悪なホールドが保持できなかった。

しばらくアイスボックス(暫定1位の選手が座る席)でとどまっていたKuzovlev Nikolai選手。
このまま逃げ切るか…!というところで最終登攀者のTomilov Maxim選手が登場。
昨シーズンはルートセッターとしてIWCに関わっていた彼が、今シーズンはプレイヤーとして戻ってきた。
5度総合成績1位というその実績の通り、あれよあれよという間に14クリップまで進みタイムアップ。見事に優勝となった。

リード種目リザルト

女子

順位 名前
1 Tolokonina Maria RUS
2 SHIN WOONSEON KOR
3 Goetz Sina SUI
4 Vlasova Ekaterina RUS
5 Bogdan Valeriia RUS
6 SEO Chaehyun KOR
7 Kotake Mei JPN
8 SON SUNGA KOR

男子

順位 名前
1 Tomilov Maksim RUS
2 Kuzovlev Nikolai RUS
3 Glatthard Yannick SUI
4 KWON YOUNGHYE KOR
5 Safdarian Korouyeh Mohammadreza IRI
6 Clair Nathan FRA
7 Grebennikov Dmitriy RUS
8 LEE CHANG HYON KOR

男女とも完登者は無し。
今回は完登させて盛り上げるのではなく最後のセクションで遠い一手を取らせて盛り上がるような課題だった。

小武選手、アジアチャンピオンシップ表彰台へ

ワールドカップ第2戦はアジアチャンピオンシップを兼ねており、今大会の結果をそのままに、アジアの選手だけでカウントし、順位をつけるというもの。

女子はSHIN WOONSEON選手が1位、SEO Chaehyun選手が2位、小武芽生選手が3位となった。
アックスを使った登攀スタイルの国際大会で、日本人が表彰台にあがる大記録を小武選手は残したことになる!

男子はKWON YOUNGHYE選手が1位、Safdarian Korouyeh Mohammadreza選手が2位、LEE CHANG HYON選手が3位となった。
日本で熱血指導をしてくれたKWON YOUNGHYE先生が表彰台の頂点に立ち、日本の生徒達も誇らしく思ったことだろう。

スピード種目

結果からいくと今回もロシア勢の表彰台独占となった。
ロシア以外の選手ではモンゴルのNyamdoo Kherlen選手が表彰台手前の4位。
他にも韓国のYANG MYUNGWOOK選手がベスト16決定戦の時4位につけるポテンシャルを見せていた。
女子ではBatbaatar Ariunbayar選手が準々決勝で5位と健闘した。

女子

順位 名前
1 Tolokonina Maria RUS
2 Bogdan Valeriia RUS
3 Vlasova Alena RUS

男子

順位 名前
1 Nemov Anton RUS
2 Kuzovlev Nikolai RUS
3 Glazyrin Nikita RUS
女子優勝決定戦、Bogdan Valeriia選手のフォールで勝利が確定し、ウイニングクライミングをするTolokonina Maria選手

日本人選手の結果

女子

名前 順位
市川倫子 24位
橋本久美子 27位

竹内春子選手、大塚優希選手、笹川淳子選手は残念ながらフォールしてしまったのだろう。
順位は確認できなかった。

男子

名前 順位
橋本翼 26位
伊藤権次 29位
中島正人 34位
森田修弘 35位

日本はスピード種目に関して環境も情報もまだまだ手探りの状況だ。
世界で通用する速度としては15m程の垂壁を女性の場合10秒台前半で、男性の場合6秒台で登る速度が出せないと戦えない。しかもフォールせずに安定して2本登ることが要求される。
参加した選手達からの貴重な体験を集め今後に活かしていく必要があるだろう。


IWC初戦と今回、現地で戦った日本人選手達から多数の写真を協力してもらった。
別の記事を設けて紹介していきたい。