【イベントレポート】第3回アイスクライミングうでだめしコンペ

2019年11月2日(土)、新宿・曙橋のベータクライミングジムで「第3回アイスクライミングうでだめしコンペ」が開催された。
このコンペティションはベータクライミングジムの2階のボルダリング壁を特別に解放した1日限定のドライツーリングウォールが戦いの舞台だ。
手にはアイスアックス、足にはクライミングシューズを履いてボルダリングと同じ高さの壁を登る課題がメインとなる。

前回の開催から4ヶ月、日頃のトレーニングの成果を披露するべく各地から選手が集った。
参加人数は回を追う毎に増えつつあり、今大会はファンクラスは8名(女子1名、男子7名)、エキスパートクラスは12名(女子4名、男子8名)の参加となった。

また、今大会のルートセッターはプロ・アイスクライマー八木名恵のほか、「ドライツーリング入門」で講師を担当する橋本翼も加わった。ドライツーリングの最先端を知るスタッフ陣がどのような課題を展開するかにも注目が集まった

ボルダーコンペを意識した内容

アイスクライミングうでだめしコンペの特長はアイスアックスとクライミングシューズで登るボルダースタイルで、手数は少ないが強度が非常に高いトラバース課題が多い。
また、地ジャンスタートやクライムダウンといった変化に富んだ課題もあり、トリッキーなムーブを起こすための閃きも試される。

トラバースで距離のある一手
地ジャンスタートの課題

予選課題はセッション方式で全17課題。各課題4トライまで可。
決勝はオンサイト方式で全3課題。各課題制限時間2分となる。

予選ROUND 1

  • ボルダー課題数9つ
  • ドライアイスツール(通称・わっか)を使ったトップロープ課題2つ

基本的なムーブがしっかりと出来ていれば完登できる課題が多く設定されていた。
難関となったのは傾斜の強いトラバースルートで、ルート途中に設定されている打ち込み用ホールドがでは多くの選手が苦戦を強いられた。
また、「わっか」を使ったトップロープ課題も比較的難易度が高めに設定されており、完登者はごく僅かとなった。

予選ROUND 2

  • ボルダー課題数6つ

ROUND 2はドライツーリングムーブの応用編となり、切り替えしムーブや、チェーンでのフィギュア4/9、さらにハンドル側でフッキングするトリッキーなメタルホールドまで登場した。
課題によっては、手順通りのホールドを無視して、強引にショートカットできる課題も登場した。そのため、ほかの選手のムーブを見ることも重要となり、革新的なムーブを見せた選手が現れると、後に続けと言わんばかりに続々と課題をクリアしていく様子が見られた。

難しい課題はアテンプト数がかさみ、長い列を作る場面もあったが、残り課題数と持ち時間を加味し、効率よく課題を消化できたかどうかが勝負の分かれ目となった。

各クラスの勝者はいかに

各クラス決勝にコマを進めたのは4名となるが、ファンクラスのみ同率順位のため、5名で競われた。
決勝はファンクラス用の課題とエキスパート用の課題に分かれ、10分のオブザベーションの後スタートとなった。

決勝ROUND

  • ボルダー課題数3つ

決勝1課題目は緩傾斜で手数がそれなりにある課題からスタートとなる。
変わった形状のメタルホールドもあったが、ファン/エキスパート共にほとんどの選手は冷静に対処することができ、完登者が多く出た。

ファンクラス決勝第1課題
L型のトリッキーなメタルホールド

決勝2課題目、ファンクラスに出てきたアンダーにかけるホールドでは、ピックが折れるアクシデントが2件発生。
アックスのヘッドを付けずに行うアンダー(浮きアンダーまたはパワーアンダーと呼ばれる)が出来るかという課題であった。
替えのアックスを差し出されても、最後まで自分のツールで登る意思を見せた選手の熱いシーンもあった。

一方、エキスパートクラスでは本コンペ最難関の課題が出現した。
足場の無いトラバースから距離のあるアンダー取りに各選手が苦戦を強いられた。
そこを越えた僅かな選手も、先に待ち構える極悪ホールドに沈められ完登を阻まれた。
そんな中、トラバースに行かずにフィギュア4でショートカットを試みる選手もおり会場が大きく盛り上がる場面もあった。

決勝3課題目、傾斜の強い壁から、吊るしモノの立方体、そして垂れ下がるチェーン。
いわゆる空中戦というもので、フィギュア4/9が必須の課題がファン/エキスパート共に登場。
ファンクラスはチェーンからスタートし、立方体→強傾斜へと移っていく課題であった。
残念ながら完登者は出なかったが、チェーンにぶら下がり振り子状態になりながら、揺れ動く立方体に果敢に手をかけていく難しいムーブを成功させていた。

エキスパートクラスは強傾斜→立方体→立方体→緩傾斜→チェーン→垂壁という強度の高いものであったが、2つ目の立方体からチェーンにショートカットすること出来ることに気づいた選手は見事に完登した。

ショートカットを試みる大谷選手

ファンクラス連覇達成

優勝は川越選手となり、前回大会に続き2連覇となった。
準優勝は若手注目株の平井選手。
3位は果敢にトライする姿が印象的な吉田選手となった。

川越選手と平井選手は非常に僅差となり、アテンプト数の差で決着がつくこととなった。
ドライツーリングは身体への負荷が非常に強いクライミングジャンルであるが、川越選手の活躍を見ると年齢は関係なく、幅広い世代で楽しめるものだということを改めて思い知らされる。
日々のトレーニング成果が存分に発揮された結果となったと言えるだろう。

ワールドカップ女子選手達の戦い

女子エキスパートクラスはその名に相応しく、アイスクライミングワールドカップを志す選手達で競われた。
決勝課題3つ目で上手くルートの弱点をつき、完登した橋本久美子選手が見事に表彰台の頂点に立った。
予選を圧巻の首位で突破した竹内選手は課題3つ目を完登できず惜しくも準優勝。
フリークライミングから転向してきた若手注目株の大塚選手が実力派クライマー笹川選手(銀嶺会)の一歩先を行き、堂々3位となった。

20代選手の台頭

男子エキスパートクラスは大谷選手が優勝した。
僅差で森田選手が準優勝。
決勝第二課題で会場を沸かせた松永選手が3位に食い込む結果となった。

優勝の大谷選手は20代でありながらコンペ経験が豊富で、各種ジャンルのクライミングコンペに10代のころから挑戦してきた強者だ。
ドライツーリングの回数自体は決して多くなかったはずだが、特有のムーブや特殊なホールドに対して柔軟に対応していき、見事なポテンシャルを見せて優勝を勝ち取った。

結びに

課題数が多いため、いかに取りこぼしなく登れる課題をしっかり完登するかというのがポイントであった。
もし今回参加できず気になっていた人は、第4回が開催される時にはその点を踏まえて是非参加して欲しい。
また、今大会は惜しくも表彰台に立てなかった選手も含めて、若い世代の選手の活躍が非常に目立つ大会となった。今後ベテラン勢との熾烈な戦いも見所となるだろうか。第4回の開催を期待したい。

オマケ

今回のコンペ出場者のアックス使用率を集計した。
この先コンペ出場を検討している人に参考になれば幸いだ。

Cassin X-Dream 20.0%
Octa/Ice Octa 20.0%
Petzl Nomic 15.0%
Krukonogi TVOROG 10.0%
Krukonogi Anchar 10.0%
IR Aspeed 10.0%
その他 15.0%
※レンタル品含む

写真提供:ベータクライミングジム